訪問看護ステーションになぜKPI管理が必要なのか

訪問看護ステーションの経営は、利用者数や訪問件数といった日々の現場業務に目が向きやすく、経営全体を数字で振り返る機会が不足しがちです。しかし小規模事業所であっても、月次で数字を確認する仕組みがなければ、赤字化や人材流出の兆候に気づくのが遅れてしまいます。

訪問看護は診療報酬制度に収益が強く依存する事業のため、加算の取得状況や制度改定の影響を数値で把握しておくことが、経営判断の精度を大きく左右します。ここでは経営者・管理者が最低限見るべき5つのKPIを、計算式と目標値、悪化時の対応策とともに整理します。

KPI①稼働率(訪問件数・生産性)

稼働率は、常勤換算スタッフ1人あたりの月間訪問件数で測る、最も基本的な生産性指標です。

計算式は次の通りです。

月間総訪問件数 ÷ 常勤換算職員数 = 1人あたり月間訪問件数

目安となる数値は次の表の通りです。

職種目標訪問件数(月)注意ライン
常勤看護師80〜100件70件未満
非常勤看護師(週3日)40〜50件35件未満
理学療法士等90〜110件80件未満

稼働率が低下している場合、原因は主に3つに分けられます。新規利用者の紹介が不足している、スタッフの移動時間や事務作業に無駄がある、あるいは休職・急な欠勤で稼働自体が落ちているというケースです。原因の切り分けには、訪問件数だけでなく移動時間や記録作成時間を含めた稼働時間の内訳も併せて確認する必要があります。

KPI②利用者単価(レセプト単価)

利用者単価は、月間レセプト総額を利用者数で割った数値で、加算の取得状況や訪問頻度、医療保険と介護保険の比率によって変動します。

計算式は次の通りです。

月間レセプト総額 ÷ 月間利用者数 = 利用者単価

目安は医療保険利用者で月8万円台、介護保険利用者で月4万円台とされることが多いですが、精神科訪問看護や特別管理加算、緊急時訪問看護加算などの取得状況によって大きく変わります。単価が業界平均より低い場合、まず確認すべきは加算の算定漏れです。

単価改善のチェックリストは次の通りです。

  • 特別管理加算の対象利用者を漏れなく算定できているか
  • 緊急時訪問看護加算の届出と算定件数が一致しているか
  • 複数名訪問加算の算定条件を満たすケースを見逃していないか
  • 精神科訪問看護基本療養費の算定要件を確認できているか
  • ターミナルケア加算の算定タイミングを逃していないか

KPI③新規利用者数と紹介元の内訳

新規利用者数は事業の成長性を示す先行指標です。単月の数字だけでなく、紹介元(病院、居宅介護支援事業所、診療所など)の内訳を追うことで、営業活動の効果を検証できます。

紹介元目安割合確認ポイント
病院・退院支援部門30〜40%退院前カンファレンス参加率
居宅介護支援事業所30〜40%ケアマネジャーとの接点頻度
診療所・在宅医15〜25%主治医との連携実績
その他(家族・口コミ等)10%前後地域内の評判

新規利用者数が伸び悩んでいる場合、特定の紹介元に依存しすぎているケースが少なくありません。紹介元の分散度も併せて確認することで、営業戦略の見直しにつながります。

KPI④離職率・定着率

離職率は訪問看護経営において最も見落とされやすいKPIですが、実際は稼働率や単価に直結する重要指標です。

計算式は次の通りです。

年間退職者数 ÷ 年度初め在籍者数 × 100 = 離職率(%)

訪問看護業界の年間離職率は全国平均で15%前後とされていますが、これを超える場合は採用コストと教育コストが経営を圧迫している可能性が高いです。1人の看護師が退職すると、採用活動費、教育期間中の生産性低下、独り立ちまでの同行訪問コストを合わせて、数十万円規模の損失が発生することも珍しくありません。

定着率を見る際は、離職率そのものに加えて次の3点も確認します。

  • 入職1年未満の離職者が全体の何割を占めているか
  • オンコール当番の負担が退職理由に含まれていないか
  • 管理者との面談頻度が月1回以上確保されているか

KPI⑤人件費率・営業利益率

最後に、収支全体を見るための人件費率と営業利益率です。

計算式は次の通りです。

人件費総額 ÷ 総収入 × 100 = 人件費率

(総収入 − 総支出) ÷ 総収入 × 100 = 営業利益率

訪問看護ステーションの人件費率は60〜70%程度が一般的な目安とされ、これを超えると稼働率や単価の改善が急務となります。営業利益率は5〜10%を目標値とする事業所が多く、これを下回る場合は固定費の見直しと合わせて、上記4つのKPIのどこに問題があるかを逆算して確認する必要があります。

KPIダッシュボードの作り方

5つのKPIを個別に見るだけでなく、月次でまとめて確認できる仕組みを作ることが重要です。以下のような簡易フォーマットをスプレッドシートで作成し、毎月同じ形式で更新することをおすすめします。

指標目標値今月実績前月比対応要否
1人あたり訪問件数90件
利用者単価6万円
新規利用者数5名
離職率(年換算)10%以下
人件費率65%以下

このようなダッシュボードを管理者会議で毎月共有することで、感覚的な経営判断から数字に基づく経営判断へ移行できます。

2026年制度改定を踏まえたKPI管理の視点

2026年度の診療報酬改定では、ICT活用や医療情報連携に関する加算の新設が予定されており、単価に影響する要素が増えています。KPIダッシュボードには、加算算定率という指標も加えておくと、制度改定による収益変動を早期に捉えやすくなります。

加算算定率は次の式で確認します。

加算算定件数 ÷ 算定対象となる利用者数 × 100 = 加算算定率

算定率が低い加算がある場合、要件を満たしているにもかかわらず記録や届出の不備で算定漏れが発生している可能性があります。四半期ごとに算定率を棒グラフ化して振り返る運用が効果的です。

まとめ

訪問看護ステーションの経営を安定させるためには、稼働率、利用者単価、新規利用者数、離職率、人件費率という5つのKPIを月次で確認する仕組みが欠かせません。それぞれの数字は独立しているのではなく、互いに影響し合っています。稼働率が下がれば単価も下がり、離職率が上がれば稼働率も下がるという連鎖が起こりやすいため、単発の数字ではなく5つを並べて見る習慣が重要です。まずは簡易なダッシュボードを作成し、毎月同じ形式で振り返ることから始めてみてください。