2026年度は診療報酬改定の年にあたります。訪問看護ステーションの経営者・管理者にとって、改定後の収支がどう変わるかを事前に把握しておくことは、人員配置や採用計画、設備投資の判断に直結します。しかし改定の詳細な点数や算定要件は、改定年の2月頃の告示まで確定しません。そこで本記事では、点数が未確定な段階でも組み立てられる収支シミュレーションの考え方と、確認すべき項目、テンプレートの作り方を解説します。
なぜ2026年改定前に収支シミュレーションが必要なのか
診療報酬改定は原則として2年に1度行われ、2026年度(令和8年度)はその改定年にあたります。改定の内容によって、訪問看護基本療養費や各種加算の算定要件が見直される可能性があり、収益構造に影響を与えます。
改定前にシミュレーションを組んでおく意味は次の2点です。
- 収入と支出の構成要素をあらかじめ洗い出しておくことで、告示後に数字を差し替えるだけで影響試算が完成する
- 現状の収支構造を可視化する過程で、既に算定できているはずの加算の取りこぼしや、支出の見直しポイントが見つかる
改定内容が確定してから慌てて収支を見直すのではなく、確定前の段階で「変動しうる項目」を整理しておくことが、経営判断のスピードを左右します。
収支シミュレーションはどの数字から組み立てるべきか
収支シミュレーションを作る際は、収入と支出をそれぞれ変動要因ごとに分解して整理します。
収入側で確認する3つの変数
収入は次の3つの変数の掛け合わせで構成されます。
- 利用者数(訪問件数)
- 利用者一人当たりの訪問回数と単価(基本療養費に加算を加えた金額)
- 保険種別の構成比(医療保険と介護保険の比率)
改定の影響を受けるのは主に2つ目の「単価」部分です。基本療養費の点数や、特別管理加算、緊急訪問看護加算、精神科訪問看護基本療養費など、各種加算の算定要件が見直された場合、同じ訪問件数でも収入額が変わります。
シミュレーションを作る際は、現状の加算算定率(どの加算を何件算定しているか)を月次で集計し、改定後の要件変更が想定される項目に印をつけておくと、告示後の差し替え作業がスムーズになります。
支出側で確認する3つの変数
支出側は収入ほど改定の直接的な影響を受けませんが、次の3つの変数を確認しておく必要があります。
- 人件費(常勤換算数×平均給与、オンコール手当を含む)
- 委託費(オンコール代行、記録システム、事務代行など)
- 固定費(事務所家賃、車両維持費、保険料など)
改定によって算定要件が変わり、必要な人員体制や記録の残し方が変わる場合、間接的に人件費や委託費が増減することがあります。例えばICTを活用した情報連携の要件が新設・変更された場合、システム導入費用や運用委託費が支出側に新たに発生する可能性があります。
2026年改定のスケジュールはどう進むのか
診療報酬改定は、過去の実績から次のような標準的なスケジュールで進みます。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 改定前年 夏〜秋 | 社会保障審議会医療保険部会・医療部会で基本方針の検討開始 |
| 改定前年 12月 | 基本方針の決定、予算編成過程で改定率を決定 |
| 改定年 2月 | 中央社会保険医療協議会の答申、告示 |
| 改定年 3月 | 算定要件・留意事項に関する通知の発出 |
| 改定年 6月 | 改定後の点数・算定ルールの施行 |
このスケジュールは令和6年度診療報酬改定の実績に基づくものです。2026年度改定も同様の流れで進むと見込まれるため、告示前の2月までは確定情報がない前提でシミュレーションの骨格だけを整え、告示後にすぐ数字を反映できる体制を作っておくことが現実的です。
中央社会保険医療協議会の総会資料は随時公開されるため、検討状況を定点観測しておくと、改定の方向性を早めに把握できます。
収支シミュレーション表はどう作ればよいか
収支シミュレーションは、次のような項目立てで月次の表を作成すると、改定前後の比較がしやすくなります。
収入側の項目例
- 訪問看護基本療養費(医療保険・介護保険それぞれ)
- 各種加算(特別管理加算、緊急訪問看護加算、精神科訪問看護関連の加算など、算定実績のあるもの)
- 利用者数、延べ訪問件数
支出側の項目例
- 人件費(常勤・非常勤別、オンコール手当を含む)
- 委託費(オンコール代行、記録システム利用料など)
- 固定費(家賃、車両費、保険料など)
表は月次で実績値を積み上げ、改定が確定した時点で収入側の単価部分だけを差し替えることで、影響額を試算できる作りにしておきます。エクセルなどの表計算ソフトで、収入項目と支出項目をそれぞれ行に、月を列に配置し、合計行で月次収支を自動計算できるようにしておくと運用しやすくなります。
シミュレーション作成前のチェックリスト
シミュレーションを組み始める前に、次の点を確認しておきます。
- 直近3か月分の加算算定実績を項目ごとに集計できているか
- 医療保険と介護保険の利用者比率を把握しているか
- オンコール手当や委託費など、人件費以外の支出項目を洗い出せているか
- 中央社会保険医療協議会の総会資料を定期的に確認する担当者を決めているか
- 告示・通知が公表された際に、誰がシミュレーション表を更新するかを決めているか
よくある誤りは何か
収支シミュレーションを作る際によくある誤りとして、収入側の加算の増減にばかり注目し、支出側の変動を見落とすケースが挙げられます。改定によって記録や情報連携の要件が変わると、システム導入や運用委託にかかる支出が増える場合があります。収入と支出の両方を同じ粒度で確認することが、精度の高いシミュレーションにつながります。
また、改定内容が確定する前に断片的な情報をもとに数字を確定させてしまうと、告示後に大幅な修正が必要になります。告示前の段階では「変動する可能性がある項目」を洗い出すことにとどめ、確定した情報のみを数字として反映する姿勢が重要です。
まとめ
2026年度は診療報酬改定の年にあたり、訪問看護ステーションの収支に影響を与える可能性があります。改定内容が確定するのは改定年の2月頃の告示以降ですが、それまでの間に収入と支出を構成する項目を洗い出し、実績値を月次で集計できる体制を整えておくことで、告示後の影響試算をスムーズに行うことができます。収入側は基本療養費と各種加算の算定実績、支出側は人件費・委託費・固定費を項目ごとに分解し、改定の検討状況を定点観測しながら準備を進めてください。
出典
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo.html
- 厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会 資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho.html