訪問看護ステーションが作成する記録には、訪問看護記録書、看護計画書、サービス提供記録、各種報告書など複数の種類があります。これらの保存期間は一律ではなく、根拠となる法令によって年数が異なります。電子カルテやタブレット入力が普及した今、紙の保存庫がなくても法令上の義務は変わりません。本記事では根拠条文に基づいて保存期間を整理し、電子化時代に管理者が押さえておくべき実務上のポイントを解説します。

訪問看護記録の保存期間はなぜ法令ごとに違うのか

訪問看護は介護保険と医療保険の両方で提供されるサービスであり、適用される法令がサービスの種類によって異なります。そのため保存期間も一律ではありません。

介護保険の指定居宅サービス事業者としての訪問看護ステーションには、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)が適用されます。同基準の記録の整備に関する規定では、利用者に対するサービス提供に関する記録を整備し、その完結の日から2年間保存しなければならないとされています。

一方、医療保険の訪問看護や主治医が作成する診療録については、医師法第24条第2項により5年間の保存義務が課されています。訪問看護記録そのものは医師法の直接の対象ではありませんが、診療録に準じる記録として扱われる場面や、保険医療機関及び保険医療養担当規則における診療に関する諸記録の保存規定(5年間)が参照されるケースもあります。

このように、同じ訪問看護ステーションの中でも、介護保険で提供したサービスの記録と、医療保険で提供したサービスの記録とで、法律上の最低保存期間が異なる可能性がある点に注意が必要です。

記録の種類別に見る保存期間の整理

実務では、どの記録が何年保存の対象なのかを混同しがちです。まず記録の種類を洗い出し、根拠法令ごとに整理しておくことが重要です。

記録の種類と一般的な分類は次の通りです。

  • 訪問看護記録書Ⅰ・Ⅱ(サービス提供の記録)
  • 訪問看護計画書・訪問看護報告書
  • サービス担当者会議の記録
  • 苦情・事故の記録
  • 主治医の指示書(原本の保管義務は医療機関側にもあるが、ステーション側も保管が必要)

介護保険の指定基準上、これらのうちサービス提供に関する記録は完結の日から2年間の保存が義務付けられています。完結の日とは、当該利用者に対するサービス提供が終了した日、つまり契約終了や死亡・転居などによりケアが終わった日を起点に数えます。継続して利用している利用者については、起算点がまだ到来していないことになるため、在籍中の利用者の記録は実質的に保存し続けることになります。

医療保険適用分の訪問看護で、診療録に該当する記録がある場合は、医師法の規定に基づき5年間の保存が必要になる場合があります。ステーション側で保有する記録がどちらの扱いになるか判断に迷う場合は、保存期間を短い方ではなく長い方に合わせて運用するのが安全です。

保存期間の起算点を誤ると何が起きるか

保存期間の計算で管理者が誤りやすいのが起算点の設定です。記録を作成した日から数えるのではなく、完結の日、つまりサービス提供が終了した日から数える点を正しく理解しておく必要があります。

利用者が長期間にわたって訪問看護を利用している場合、その利用者に関する記録はまだ完結していないため、保存期間のカウントダウンは始まりません。利用終了後に初めて起算が始まり、そこから2年間(介護保険の場合)の保存義務が生じます。

実地指導では、過去に退院や契約終了となった利用者の記録が適切に保管されているか、廃棄済みの記録がある場合はその廃棄が保存期間経過後であったかを確認されることがあります。保存期間内に記録を廃棄してしまうと、指定基準違反として指摘を受ける可能性があるため、廃棄のタイミング管理は慎重に行う必要があります。

電子化した記録を保存する際に満たすべき基準

紙の記録を電子データに置き換える場合、単にスキャンしてサーバーに保存すれば法令上の保存義務を果たしたことになるわけではありません。厚生労働省が示す医療情報システムの安全管理に関するガイドラインでは、電子的な医療情報を保存する際に満たすべき基準として、真正性、見読性、保存性の3つが挙げられています。

真正性とは、記録された情報が後から不正に書き換えられていないこと、作成者が明確であることを指します。見読性とは、必要なときにすぐに読み取れる状態で保存されていることです。保存性とは、法定の保存期間を通じて、復元可能な状態でデータが維持されていることを意味します。

電子化を進める際にチェックすべき項目は次の通りです。

  • 記録の作成者と作成日時が自動的に記録される仕組みになっているか
  • 修正履歴が残り、修正前後の内容が確認できるか
  • クラウドサービスを利用する場合、サービス提供事業者が記録の保存期間中にわたりデータを保持する契約になっているか
  • サービス終了時や契約解除時にデータを移行またはエクスポートできる仕組みがあるか
  • バックアップ体制が整っており、災害時にもデータが失われない設計になっているか
  • アクセス権限が利用者ごとに設定され、改ざん防止の仕組みがあるか

特にクラウド型の記録システムを利用している場合、ベンダーとの契約内容を確認し、サービス終了時にデータが消失しないよう事前に取り決めておくことが重要です。システムを乗り換える際にも、旧システムのデータを保存期間中は参照できる状態にしておく必要があります。

自治体ごとの条例による上乗せに注意する

介護保険の指定基準は、地方分権の流れの中で条例に委任されている部分があります。国が定める基準は最低限の基準であり、都道府県や指定都市、中核市が条例でこれより厳しい基準、つまり保存期間を長く定めている場合があります。

指定申請や更新の際に自治体から交付される運営基準の条例やその解釈通知を確認し、国の基準である2年間よりも長い保存期間が定められていないかを必ず確認してください。複数の自治体にまたがって事業展開しているステーションでは、事業所ごとに適用される条例が異なる可能性があるため、一覧表で管理しておくことをおすすめします。

保存期間管理のチェックリスト

管理者が記録の保存期間を適切に管理するために、次の項目を定期的に確認することをおすすめします。

  • 記録の種類ごとに適用される法令と保存期間を一覧化しているか
  • 利用者ごとの完結日(契約終了日)を記録し、起算点を管理できているか
  • 電子記録システムが真正性・見読性・保存性の3基準を満たしているか
  • クラウドサービス利用時の契約書にデータ保持期間が明記されているか
  • 自治体の条例で国の基準より長い保存期間が定められていないか確認済みか
  • 廃棄予定の記録について、保存期間経過の確認と責任者の承認フローがあるか
  • 個人情報を含む記録の廃棄方法が復元不能な手段になっているか

これらを年に一度は見直し、職員の異動や管理者交代があった場合でも運用ルールが引き継がれるよう、文書化しておくことが望まれます。

まとめ

訪問看護記録の保存期間は、介護保険の指定基準では完結の日から2年間、医師法が適用される診療録では5年間と、根拠法令によって年数が異なります。電子化によって記録管理が効率化される一方で、保存期間の起算点や電子保存の技術基準を誤解したままでは、実地指導で指摘を受けるリスクが残ります。記録の種類ごとに適用法令を整理し、自治体条例による上乗せの有無も確認した上で、電子システムが真正性・見読性・保存性を満たしているかを定期的に点検することが、法令遵守の基本になります。

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