オンコール対応で判断ミスが起きる本当の理由
訪問看護のオンコール対応では、電話を受けた看護師がその場で緊急度を判断し、訪問するかどうかを決めなければなりません。この判断が属人化していると、同じ症状の電話でも対応者によって結論が変わってしまいます。経験年数の浅いスタッフが一人で判断に迷い、様子見と伝えたケースが実は緊急性の高い状態だった、というのはオンコール体制が抱える典型的なリスクです。
判断ミスの多くは、看護師個人の力量不足というより、判断の拠り所となる基準が事業所内に明文化されていないことに起因します。トリアージプロトコルとは、電話相談を受けた際に緊急度を判定し、訪問の要否や医師への連絡タイミングを標準化した判断基準のことです。これを整備することで、誰が電話を受けても同じ水準の判断ができる体制に近づけます。
判断ミスが起きやすい典型パターン
オンコール対応の現場でよく見られる判断ミスのパターンを整理すると、次の三つに集約されます。
第一に、緊急度の基準が個人の感覚に依存しているケースです。何をもって緊急とするか、何をもって経過観察でよいとするかが明文化されていないと、同じ情報を得ても判断が分かれます。
第二に、聞き取り項目が定まっていないケースです。電話口での情報収集が不十分なまま判断してしまうと、重要な症状の見落としにつながります。バイタルサインの有無、発症時刻、既往歴との関連など、最低限確認すべき項目をあらかじめ決めておく必要があります。
第三に、相談先が明確でないケースです。判断に迷った際に誰に、どのタイミングで相談すべきかが決まっていないと、一人で抱え込んだまま時間だけが過ぎてしまいます。
トリアージプロトコル作成の5ステップ
ステップ1 緊急度レベルを定義する
まず緊急度を何段階に分けるかを決めます。多くの事業所では、即時訪問が必要なレベル、電話指導で経過観察するレベル、翌日以降の通常対応でよいレベルの3段階に分ける方法が使われています。段階を細かくしすぎると現場での判断が逆に複雑になるため、まずは3段階からの運用が現実的です。
ステップ2 症状別の判断基準表を作る
次に、利用者から報告されやすい症状ごとに、どのレベルに該当するかの目安を一覧化します。呼吸困難、発熱、疼痛の増悪、転倒、褥瘡の悪化、精神症状の急変など、事業所の利用者層に応じてよくある相談内容を洗い出し、それぞれについて確認すべきポイントと緊急度の目安を対応させます。ここで重要なのは、利用者の個別性を無視した一律の基準ではなく、既往歴や現在の医療的管理状況を踏まえて緊急度を微調整できる余地を残しておくことです。
ステップ3 電話対応の聞き取りフォーマットを統一する
電話を受けた際に確認する項目を定型化しておくと、経験の浅いスタッフでも必要な情報を漏れなく聞き取れます。最低限、次の項目は共通フォーマットに含めておくとよいでしょう。
- 利用者氏名と発症時刻
- 主訴と随伴症状
- バイタルサイン(測定可能な場合)
- 直近の訪問看護記録との整合性
- 家族など介護者の対応状況
ステップ4 エスカレーションルールを明文化する
判断に迷った場合に誰へ、どの順番で相談するかを事前に決めておきます。オンコール担当者本人の判断だけで完結させず、管理者や主治医への連絡ラインをあらかじめ整理しておくことで、迷いが生じた際にも時間をかけずに次の行動へ移れます。連絡先リストは定期的に更新し、オンコール当番が変わっても常に最新の連絡網を参照できる状態にしておくことが必要です。
ステップ5 対応内容を記録し振り返る仕組みを作る
対応した内容とその判断根拠を記録に残し、翌朝のカンファレンスなどで共有する仕組みを組み込みます。記録がなければ、後から判断の妥当性を検証することも、プロトコル自体を改善することもできません。振り返りの積み重ねが、プロトコルの精度を高めていきます。
制度上の位置づけを確認する
訪問看護ステーションが緊急時訪問看護加算や24時間対応体制加算を算定する場合、利用者からの電話等に常時対応できる体制を整えていることが要件となります。ただし、これらの加算の要件は体制の整備を求めるものであり、対応の質を担保する具体的な判断基準までは規定していません。つまり、トリアージプロトコルの中身をどう作るかは各事業所の裁量に委ねられている部分です。加算を算定しているからといって判断基準まで整っているとは限らない点を、管理者は認識しておく必要があります。
また、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準では、利用者の状態に応じた適切なサービス提供と、緊急時における対応方法をあらかじめ定めておくことが求められています。この規定に沿って、事業所ごとに緊急時対応マニュアルの一部としてトリアージプロトコルを位置づけておくことが望まれます。
プロトコル運用のチェックリスト
作成したプロトコルが形骸化しないよう、次の項目を定期的に確認します。
- 緊急度の3段階区分は現場の実態に合っているか
- 症状別判断基準表は利用者層の変化に応じて更新されているか
- 聞き取りフォーマットは全スタッフに周知されているか
- エスカレーション先の連絡網は最新の状態か
- 対応記録は翌朝のカンファレンスで共有されているか
- 新人スタッフへのプロトコル研修は実施されているか
- 判断に迷った事例は月次で振り返っているか
よくある例から見える改善のヒント
よくある例として、電話対応の記録に判断の根拠が書かれておらず、後から見返しても何を基準に訪問を見送ったのかが分からないというケースがあります。記録欄に緊急度判定の区分と根拠を記入する欄を設けておくだけで、振り返りの精度は大きく変わります。また、経験の浅いスタッフが一人でオンコールに入る際に、判断基準表を手元に置いていなかったために迷いが生じたという声も聞かれます。プロトコルは作って終わりではなく、当番のたびに参照できる場所に置いておくことが重要です。
まとめ
オンコール対応の判断ミスは、看護師個人の資質の問題として片付けられがちですが、実際には事業所内に明文化された判断基準がないことが主な原因です。緊急度を3段階で定義し、症状別の判断基準表と聞き取りフォーマットを整備し、エスカレーションルールと記録の仕組みを組み合わせることで、誰が電話を受けても一定水準の判断ができる体制に近づけます。加算算定の要件を満たすことと、実際の対応の質を担保することは別の課題であることを踏まえ、自事業所のプロトコルを一度点検してみることをお勧めします。
出典
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411M50000100037
- 厚生労働省 訪問看護に関する報酬・基準の考え方(政策情報ページ) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
