訪問看護の現場では、主治医への報告、ケアマネジャーとのサービス担当者会議、他事業所への引継ぎなど、日常的に利用者の個人情報を外部とやり取りしています。これらはすべて個人情報保護法上の第三者提供にあたり、しかも訪問看護記録の多くは病歴や心身の状態を含む要配慮個人情報に該当するため、通常の個人情報よりも厳格な取扱いが求められます。本記事では、訪問看護ステーションの管理者・サービス提供責任者が押さえておくべき第三者提供の同意取得実務を、具体的な場面ごとに整理します。

個人情報保護法で訪問看護記録はどう扱われるのか

個人情報保護法第2条第3項は、病歴、心身の機能障害、健康診断の結果などを要配慮個人情報と定義しています。訪問看護記録には利用者の疾患名、既往歴、服薬状況、精神症状の経過などが記載されるため、その大部分が要配慮個人情報に該当します。

要配慮個人情報については、取得時に原則として本人の同意が必要であるほか、第三者提供の場面でも通常の個人情報より厳しいルールが適用されます。具体的には、個人情報保護法第27条第2項はオプトアウト方式(本人が拒否しない限り提供を認める方式)による第三者提供を認めていますが、同項ただし書により要配慮個人情報はこの対象から除外されています。つまり訪問看護事業者は、要配慮個人情報を第三者に提供する際、オプトアウトという簡便な方法を使うことができず、原則として本人の同意を得る必要があります。

第三者提供の原則と黙示の同意という考え方

個人情報保護法第27条第1項は、第三者提供には原則として本人の同意が必要であると定めています。しかし医療・介護の現場では、すべての連携場面で書面による個別同意を取得することは現実的ではありません。そこで厚生労働省と個人情報保護委員会が公表している医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスでは、一定の場面について黙示の同意が得られているとみなしてよいとする考え方が示されています。

黙示の同意が認められるのは、利用者が医療・介護サービスを受けるにあたって通常想定される情報のやり取りの範囲に限られます。例えば、訪問看護ステーションが主治医に病状を報告する、ケアマネジャーとサービス担当者会議で情報を共有する、といった行為は、サービス提供契約の性質上当然に必要とされる情報連携として、黙示の同意の範囲に含まれると整理されることが多くあります。

一方で、この黙示の同意はあくまで通常のサービス提供に必要な範囲に限られます。利用目的を超える提供や、サービス提供に直接関係しない第三者への提供には、別途明示の同意が必要になります。

訪問看護で同意取得が必要になる主な場面

実務上、訪問看護ステーションが個人情報を外部に提供する場面を整理すると、おおむね次のように分類できます。

黙示の同意で対応できることが多い場面

  • 主治医への病状報告、指示書に関するやり取り
  • 同一の利用者に関わる他職種(理学療法士、薬剤師など)との連携
  • ケアマネジャーとのサービス担当者会議での情報共有
  • 同居し日常的に介護に関与している家族への説明

これらは利用者が訪問看護サービスを利用する際に通常想定される情報連携であり、契約時の重要事項説明で利用目的を明示していれば、個別の同意書を都度取得しなくても対応できる場合が多いとされています。

明示の同意が必要になることが多い場面

  • 他の訪問看護ステーションや医療機関への転院・転居に伴う情報提供
  • 別居している親族や疎遠な家族への病状説明
  • 学校、職場、行政機関など医療・介護サービスの範囲外の第三者への提供
  • 研究、広報、研修事例としての情報利用(匿名化が不十分な場合)
  • オンライン診療事業者やICTツール事業者との間でのデータ連携(委託に該当しない場合)

これらは利用者本人の予測可能な範囲を超える提供であることが多く、書面や記録に残る形での明示の同意取得が求められます。

重要事項説明書による包括同意の設計

訪問看護ステーションの多くは、契約時に交付する重要事項説明書や個人情報使用同意書の中で、情報提供先と利用目的をあらかじめ列挙し、包括的な同意を得る運用を取っています。この包括同意が有効に機能するためには、次の点を満たしておく必要があります。

  • 提供先の範囲が具体的に記載されていること(主治医、ケアマネジャー、連携する医療機関など)
  • 提供する情報の種類と利用目的が明示されていること
  • 利用者またはその代理人が同意の内容を理解した上で署名していること
  • 同意を撤回できる旨と撤回の方法が明記されていること

包括同意に含まれていない提供先や目的については、別途個別の同意を取得する必要があります。特にオンライン診療の実施や外部システムへのデータ連携など、契約時点で想定していなかった情報提供が発生する場合は、重要事項説明書の見直しと追加の同意取得を検討すべきです。

同意取得実務のチェックリスト

訪問看護ステーションが自事業所の運用を点検する際は、次の項目を確認してください。

  • 重要事項説明書に第三者提供先と利用目的が具体的に記載されているか
  • 利用者本人の判断能力が不十分な場合、代理人による同意取得の手順が定められているか
  • ケアマネジャーや他事業所への情報提供範囲が、サービス提供に必要な範囲にとどまっているか
  • 別居家族や親族への説明について、提供範囲を事前に本人へ確認しているか
  • オンライン診療やICTツール導入時に、データ連携について追加の同意取得を行ったか
  • 同意の撤回があった場合の対応手順が整備されているか
  • 職員が私物のスマートフォン等で利用者情報をやり取りしていないか

制度見直しの動向にも注意する

個人情報保護法は附則の規定により、おおむね3年ごとに見直しが行われる仕組みになっています。個人情報保護委員会はこれに基づき検討を進めており、要配慮個人情報の範囲や第三者提供のあり方についても議論の対象となっています。医療・介護分野は特に取扱う情報の機微性が高いため、今後の見直しの内容によっては、訪問看護ステーションの同意取得実務にも影響が及ぶ可能性があります。最新の検討状況は個人情報保護委員会の公表資料で随時確認することをおすすめします。

まとめ

訪問看護における第三者提供の実務は、黙示の同意で対応できる場面と、明示の同意が必要な場面を正しく切り分けることが出発点になります。主治医やケアマネジャーとの日常的な連携は黙示の同意の範囲に含まれることが多い一方、他事業所への引継ぎや別居家族への説明、外部システムとのデータ連携は明示の同意が求められるケースが少なくありません。重要事項説明書での包括同意の内容を定期的に見直し、個別同意が必要な場面を職員全体で共有しておくことが、情報漏えいや苦情を防ぐ実務的な対策になります。

出典