訪問看護の褥瘡ケアはなぜ難しいのか
在宅における褥瘡ケアは、病院とは異なる制約の中で行う必要があります。医療機器や物品が限られ、介護者の技術レベルにも差があり、訪問頻度も週数回程度に限られます。そのため、限られた訪問時間の中で正確なアセスメントを行い、次回訪問までの間に状態が悪化しないようケアプランを組み立てる力が求められます。
褥瘡は一度発生すると治癒までに数週間から数か月かかることも珍しくありません。管理者・サービス提供責任者にとっては、アセスメントの標準化と記録の質を保つことが、利用者のQOL維持だけでなく特別管理加算などの算定根拠を残すうえでも重要になります。
褥瘡アセスメントでは何を評価すべきか
褥瘡アセスメントは大きく分けて二つの視点があります。一つは発生リスクの評価、もう一つは既存褥瘡の重症度評価です。
発生リスクの評価では、ブレーデンスケールが広く使われています。評価項目は次の6つです。
- 知覚の認知(痛みや不快感を訴えられるか)
- 湿潤(皮膚が湿っている頻度)
- 活動性(歩行できるか、寝たきりか)
- 可動性(体位を変える能力)
- 栄養状態(食事摂取量、血清アルブミン値など)
- 摩擦とずれ(体位変換時の皮膚への負担)
合計点が低いほどリスクが高く、17点以下(施設によっては18点以下)でハイリスクと判断されることが一般的です。
既存褥瘡の重症度評価には、DESIGN-R2020が用いられます。評価項目は以下の7つです。
| 項目 | 評価内容 |
|---|---|
| Depth | 深さ |
| Exudate | 滲出液の量 |
| Size | 大きさ(長径×短径) |
| Inflammation/Infection | 炎症・感染の有無 |
| Granulation | 肉芽組織の割合 |
| Necrotic tissue | 壊死組織の有無 |
| ポケットの有無・大きさ |
重度の場合は各項目をアルファベット大文字、軽度の場合は小文字で表記し、合計点で経過を追跡します。訪問のたびに同じ基準で採点することで、改善傾向か悪化傾向かを客観的に共有できます。
褥瘡の重症度はどう判断する?深度分類と加算の関係
深度分類はNPUAP/EPUAPの4段階(I度からIV度)が実務上よく参照されます。この分類は特別管理加算の算定判断にも直結します。真皮を越える損傷、つまりIII度以上の褥瘡がある利用者は特別管理加算Iの対象となり得るため、深度の記録は臨床評価であると同時に算定根拠でもあります。
判断に迷いやすいポイントを整理します。
- 発赤のみでまだ皮膚欠損がない場合は加算対象にならない
- 水疱が破れて浅い潰瘍になった場合もII度相当で対象外となることが多い
- 壊死組織で覆われて深さの判定ができない場合は、判定不能として記録し、医師に確認する
深度の判断に自信が持てない場合は、写真記録を残し、主治医や皮膚科医と情報共有しながら評価することが望ましいです。
在宅での褥瘡処置はどう進める?
在宅処置の基本的な流れは次のとおりです。
- 手指衛生と使い捨て手袋の着用
- 創部周囲の皮膚状態と滲出液の量を観察
- 生理食塩水または微温湯での洗浄(消毒薬の常用は推奨されない)
- 壊死組織がある場合は医師の指示のもとデブリードマンを検討
- 滲出液量に応じた被覆材の選択
- 固定と体位変換の指導
被覆材は滲出液の量によって使い分けます。
| 滲出液の状態 | 被覆材の例 |
|---|---|
| 少ない・乾燥気味 | ハイドロコロイド |
| 中等度 | ハイドロファイバー、アルギン酸塩 |
| 多い | フォーム材、ポリウレタンフォーム |
| 感染兆候あり | 銀含有ドレッシング(医師の指示下) |
在宅では介護者が交換を担うケースもあるため、交換頻度が少なく管理しやすい製品を選ぶ視点も欠かせません。
体位変換・栄養管理など多職種連携で何をすべきか
褥瘡治癒には処置だけでなく、除圧と栄養状態の改善が不可欠です。
除圧については以下を確認します。
- 体位変換は原則2時間ごと、体圧分散マットレス使用時は状況に応じて延長可能
- 車椅子使用時は座位姿勢の見直しとクッションの適合確認
- 踵部など突出部の除圧用具の使用状況
栄養面では、血清アルブミン値、体重減少の有無、食事摂取量を定期的に確認し、必要に応じて管理栄養士や主治医と連携して栄養補助食品の導入を検討します。褥瘡治癒には十分なたんぱく質とエネルギー摂取が必要であり、栄養状態の改善なしに創傷治癒は進みにくいことが知られています。
連携先としては、主治医、皮膚科医、管理栄養士、ケアマネジャー、福祉用具専門相談員などが挙げられます。特にマットレスや車椅子クッションの選定は福祉用具専門相談員との情報共有が有効です。
褥瘡ケアの記録で押さえるべきポイントは?
記録は臨床判断の根拠であると同時に、加算算定や実地指導への対応資料にもなります。最低限押さえておきたい記録項目は次のとおりです。
- 評価日とDESIGN-Rスコアの推移
- 深度分類(I度〜IV度)の判定根拠
- 処置内容(洗浄方法、使用した被覆材)
- 体位変換の実施状況と除圧用具の使用状況
- 栄養状態に関する情報
- 写真記録(可能な場合、利用者・家族の同意を得て撮影)
記録が断片的だと、悪化した際に原因を遡って検証しづらくなります。毎回同じフォーマットで記録することで、担当者が変わっても評価の連続性を保てます。
よくある算定・記録ミスとその防止策
褥瘡ケアに関連する算定や記録でよく見られるつまずきを整理します。
| よくあるミス | 防止策 |
|---|---|
| 深度の記載が曖昧で加算根拠が不明確 | NPUAP分類とDESIGN-Rを併記する運用にする |
| 写真記録がなく経過が追えない | 同意取得の上、定点撮影をルール化する |
| 体位変換の実施記録が抜けている | 訪問記録テンプレートに必須項目として組み込む |
| 栄養状態の評価が処置記録と別管理になっている | 褥瘡ケア記録に栄養情報の欄を設ける |
こうした抜け漏れは、記録テンプレートの見直しだけでかなり防ぐことができます。ステーション内で褥瘡ケア専用の記録様式を作成し、評価項目を固定化しておくことをおすすめします。
まとめ
訪問看護における褥瘡ケアは、リスクアセスメント、重症度評価、在宅処置、多職種連携、記録という一連の流れを一貫して管理することが治癒への近道です。ブレーデンスケールとDESIGN-R2020を組み合わせて客観的に評価し、深度分類に基づいて特別管理加算の対象判断を行い、除圧と栄養管理を並行して進めることが実践上のポイントになります。記録を標準化しておくことで、担当者間の情報共有だけでなく、算定根拠の整備にもつながります。
