TL;DR

PNS(パートナーシップ・ナーシング・システム)は、2人の看護師がペアを組んで看護提供にあたる方式です。病棟看護で普及した手法ですが、訪問看護に応用することで新人教育の質を高め、単独訪問への不安を軽減し、オンコール負担の分散にもつながります。本記事では訪問看護ステーションにおけるPNS導入の具体的な手順と、運用上の注意点を解説します。

PNSとは何か、訪問看護にどう応用できるのか

PNSはもともと病棟看護における2人1組の看護提供体制として考案された方式です。固定されたパートナー同士が互いの強みを補完し合いながら、看護計画の立案から実施、評価までを共同で行います。

訪問看護においては、1人の看護師が利用者宅を単独で訪問し、その場で医療的判断を下さなければならない場面が日常的に発生します。この単独判断の重圧が新人看護師の離職理由として上位に挙がることは、多くの管理者が経験的に把握している課題です。

PNSを訪問看護に応用する場合、次の3つの型があります。

内容向いているステーション
完全同行型全ての訪問に2人で向かう新規開設・重症児者中心
判断支援型訪問は単独だが判断に迷う場面で即座に相談できる体制中規模・利用者数が多い
教育限定型新人期間のみペア訪問を実施新卒採用を行うステーション

多くのステーションでは、経営資源の制約から教育限定型または判断支援型を選択するケースが大半です。

なぜ今、訪問看護にPNS導入が求められているのか

訪問看護師の有効求人倍率は依然として高く、採用した人材をいかに定着させるかが経営課題になっています。特に新卒や訪問看護未経験者を採用する場合、単独訪問に移行するまでの教育期間中の離職が大きな損失につながります。

厚生労働省の調査でも、訪問看護師の離職理由として「訪問時の判断への不安」「相談相手がいない孤独感」が上位に挙がっており、これらはPNSのペア制によって直接的に軽減できる課題です。

また2026年度診療報酬改定に向けた議論でも、訪問看護の人材育成体制やオンコール対応体制の整備が評価される方向性が示されており、教育体制を明文化しているステーションは採用活動でも優位に立てます。

訪問看護版PNS導入の具体的ステップ

ステップ1 現状のペア教育の棚卸しをする

まず現在の新人教育がどのように行われているかを可視化します。同行訪問の回数、期間、担当プリセプターの負担を数値化することから始めます。

  • 新人1人あたりの同行訪問回数(直近1年の実績)
  • プリセプター1人が抱える新人の人数
  • 単独訪問開始までの平均期間

ステップ2 ペア編成基準を明文化する

感覚的なペア組みではなく、基準を文書化します。

項目基準例
経験差経験年数3年以上差をつけない、または意図的に指導役をつける
専門性精神科訪問経験者と身体合併症対応経験者を組み合わせる
移動効率訪問エリアが近い組み合わせにする
相性半期ごとに希望を聴取し見直す

ステップ3 役割分担表を作成する

ペア訪問時に誰が何を担当するかを明確にしないと、同行するだけの形骸化が起こります。以下のような役割分担表をテンプレート化しておくと運用しやすくなります。

訪問フェーズ担当A(指導役)担当B(新人)
事前カンファレンス留意点の説明質問事項の整理
バイタル測定見守り実施
医療処置実施もしくは監督実施(可能な範囲)
記録確認作成
振り返りフィードバック疑問点の言語化

ステップ4 試験運用と効果測定を行う

1か月から3か月程度の試験運用を行い、以下の指標で効果を測定します。

  • 新人の単独訪問開始までの期間短縮率
  • ヒヤリハット報告件数の変化
  • 新人・指導役双方の満足度アンケート
  • 訪問件数への影響(生産性の低下幅)

試験運用の結果をもとに、本格導入の可否と対象範囲(全新人か特定の疾患群かなど)を決定します。

PNS導入によるオンコール負担軽減効果

PNSはペアで利用者情報を共有しているため、オンコール当番時にパートナーが不在でも対応がしやすくなるという副次的効果があります。ペア内で情報共有が密であるほど、オンコール担当者が単独で背負う情報量の負担が軽減されます。

  • ペア内で利用者の急変傾向やリスク情報を常に共有しておく
  • オンコール当番表とペア編成表を連動させ、担当利用者の情報が引き継がれるようにする
  • ペアの片方が休暇中でも、もう一方が代理でオンコール相談を受けられる体制にする

こうした仕組みは外部のオンコール代行サービスと組み合わせることでさらに負担を分散でき、夜間対応の一次受けを外部委託しつつ、二次判断をペア内で完結させる運用も可能です。

PNS導入時に注意すべき点は何か

生産性低下への対応

ペア訪問は1件あたりの人件費コストが単純計算で2倍になります。教育限定型や判断支援型を選択し、常時ペア訪問にしないことでコストを抑える工夫が必要です。

記録上の整合性

2人で訪問した場合の記録責任の所在を明確にしておかないと、訪問看護記録書の記載内容に齟齬が生じるリスクがあります。主担当者を明記するルールを就業規則や業務手順書に落とし込みます。

形骸化の防止

役割分担表を作らずに「とりあえず一緒に行く」運用にすると、新人が受け身のまま同行するだけになりがちです。定期的に役割分担表の運用状況を振り返る機会を設けます。

PNS導入チェックリスト

  • ペア編成基準を文書化したか
  • 役割分担表を作成し、全スタッフに周知したか
  • 試験運用の期間と評価指標を設定したか
  • 記録上の責任の所在ルールを整備したか
  • オンコール体制とペア編成を連動させたか
  • 半期ごとのペア見直しサイクルを設定したか
  • 新人・指導役双方へのアンケートを実施する仕組みを作ったか

まとめ

PNSは病棟看護で培われた2人1組の看護提供方式ですが、訪問看護における単独判断の重圧を軽減する手段として応用価値が高い仕組みです。導入にあたってはペア編成基準と役割分担表の明文化が最も重要であり、これらが曖昧なまま運用を始めると形骸化しやすくなります。教育限定型や判断支援型など、自ステーションの規模と経営体力に見合った型を選び、試験運用を経て段階的に本格導入することが成功の鍵になります。オンコール体制との連動を図ることで、単なる教育施策にとどまらず、スタッフ全体の負担軽減と定着率向上につながる仕組みへと発展させることができます。