この記事でわかること
- 【体制評価】介護保険:緊急時訪問看護加算 (I)(II)の要点と実務対応
- 【体制評価】医療保険:24時間対応体制加算の要点と実務対応
- 【実施評価】医療保険:緊急訪問看護加算の要点と実務対応
- 見落としがちな算定ルールの要点と実務対応
- よくある返戻パターンと対策の要点と実務対応
はじめに:「緊急時訪問看護加算」は2種類ある
訪問看護の加算の中で、最も混乱を招きやすいのが「緊急時」に関する加算です。
実は、「緊急時訪問看護加算」には2つの意味があります。
- 体制の評価:24時間対応できる体制を整備していることへの加算(=毎月算定可能)
- 実施の評価:実際に計画外の緊急訪問を行ったことへの加算(=訪問ごとに算定)
さらに、介護保険と医療保険で名称が異なるため、混乱に拍車をかけています。
| 評価対象 | 介護保険での名称 | 医療保険での名称 |
|---|---|---|
| 体制の確保 | 緊急時訪問看護加算 | 24時間対応体制加算 |
| 実際の緊急訪問 | (所定単位数で算定) | 緊急訪問看護加算 |
本記事では、この混乱を整理し、各加算の算定要件を実務レベルで解説します。
【体制評価】介護保険:緊急時訪問看護加算 (I)(II)
【体制評価】介護保険:緊急時訪問看護加算 (I)(II)について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
2024年改定で2区分に
2024年度改定で、従来の1区分から(I)と(II)の2区分に再編されました。
| 区分 | 訪問看護ステーション | 病院・診療所 |
|---|---|---|
| 緊急時訪問看護加算 (I) | 600単位/月 | 325単位/月 |
| 緊急時訪問看護加算 (II) | 574単位/月 | 315単位/月 |
算定要件
共通要件((I)(II)共通)
- 利用者・家族からの電話等による看護相談に常時対応できる体制があること
- 計画外の緊急時の訪問看護が可能な体制であること
- 利用者・家族に書面で説明し同意を得ていること
- 指定権者(都道府県または市町村)に届出が受理されていること
- 1利用者につき1事業所のみ算定可能
上位区分(I)の追加要件
看護業務の負担軽減に資する体制整備として、以下から2項目以上(うちア又はイを必ず含む)を実施していること:
| 記号 | 取り組み内容 |
|---|---|
| ア | 夜間対応した翌日の勤務間隔の確保 |
| イ | 夜間対応の連続回数を2回までに制限 |
| ウ | 夜間対応後の暦日での休日確保 |
| エ | 夜間勤務のニーズに応じた勤務体制の工夫 |
| オ | ICT・AI・IoT等の活用による業務負担軽減 |
| カ | 連絡・相談担当者への支援体制の確保 |
【体制評価】医療保険:24時間対応体制加算
【体制評価】医療保険:24時間対応体制加算について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
点数(月1回算定)
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 24時間対応体制加算 イ(負担軽減あり) | 6,800円/月 |
| 24時間対応体制加算 ロ(負担軽減なし) | 6,520円/月 |
参考:24時間連絡体制加算(連絡のみ・訪問体制は不要)は3,200円/月。対応体制加算との併算定は不可。
算定要件
- 介護保険の緊急時訪問看護加算と基本的に同じ体制要件
- 届出先は地方厚生(支)局
- 利用者への書面説明・同意・連絡先の文書交付が必要
「連絡体制加算」と「対応体制加算」の違い
| 比較項目 | 24時間連絡体制加算 | 24時間対応体制加算 |
|---|---|---|
| 金額 | 3,200円/月 | 6,520〜6,800円/月 |
| 連絡体制 | 必要 | 必要 |
| 訪問体制 | 不要 | 必要 |
| 経営的推奨 | △ | ◎ |
経営者への提言:連絡体制加算と対応体制加算の差額は月3,000円以上あります。訪問体制まで整備して対応体制加算を算定するほうが、利用者の安心感と収益の両面で圧倒的に有利です。
【実施評価】医療保険:緊急訪問看護加算
体制評価の加算とは別に、実際に計画外の緊急訪問を行った場合に算定する加算があります。
点数
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 月14日目まで | 2,650円/日 |
| 月15日目以降 | 2,000円/日 |
算定要件
- 訪問看護計画に基づく定期訪問以外で、利用者・家族の緊急の求めに応じて行った訪問であること
- 主治医の指示により訪問看護ステーションの看護師等が訪問看護を行った場合
- 主治医は診療所又は在宅療養支援病院の保険医に限定
- 24時間往診・連絡体制が構築されていること
- 訪問看護記録書に「日時」「内容」「対応状況」を記載すること
介護保険での緊急訪問の取り扱い
介護保険には「緊急訪問看護加算」という個別の加算はありません。緊急時に計画外の訪問を行った場合は、所要時間に応じた所定単位数を算定します。
ただし、以下の手続きが必要です:
- 居宅サービス計画の変更手続き
- ケアマネジャーへの報告
見落としがちな算定ルール
見落としがちな算定ルールについて、実務で押さえるべきポイントを解説します。
ルール1:1回目の緊急訪問では時間帯加算が算定できない
介護保険において、当該月の1回目の緊急訪問では、早朝・夜間・深夜の時間帯であっても時間帯加算は算定できません。
2回目以降の緊急訪問では算定可能です。
| 時間帯 | 加算率 | 1回目 | 2回目以降 |
|---|---|---|---|
| 早朝(6:00-8:00) | 所定単位数の25% | × | ○ |
| 夜間(18:00-22:00) | 所定単位数の25% | × | ○ |
| 深夜(22:00-6:00) | 所定単位数の50% | × | ○ |
ルール2:ステーション都合の時間外訪問は対象外
利用者・家族の求めによる訪問のみが対象です。ステーション側の都合(訪問順の変更等)で時間外になった場合は、時間帯加算は算定できません。
ルール3:同一利用者に対して1事業所のみ
複数の訪問看護ステーションを利用している場合でも、緊急時訪問看護加算(体制評価)を算定できるのは1事業所のみです。
ルール4:介護保険と医療保険の同月併算定は不可
同一利用者に対して、介護保険の緊急時訪問看護加算と医療保険の24時間対応体制加算を同じ月に併算定することはできません。
よくある返戻パターンと対策
よくある返戻パターンと対策について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
返戻パターン1:複数事業所からの重複算定
よくあるケース:利用者が2か所のステーションを利用しており、両方から緊急時訪問看護加算を請求してしまう。
対策:
- 利用開始時に他事業所の加算算定状況を必ず確認
- ケアマネジャーに確認する運用を標準化
- 利用者台帳に「緊急時加算:当ステーションで算定」等を明記
返戻パターン2:同意書の未取得・不備
よくあるケース:口頭での説明のみで書面の同意が取れていない。同意日が不明確。
対策:
- 重要事項説明書の中に24時間対応体制の説明と同意欄を組み込む
- 同意取得日を明確に記録
- 同意書の原本はステーション保管、写しを利用者に交付
返戻パターン3:2024年改定後のコード誤り
よくあるケース:改定前のサービスコードで請求、(I)の要件を満たしていないのに(I)で請求。
対策:
- 請求ソフトのマスタを最新版に更新
- 負担軽減体制の要件充足を自己チェック
- レセプト提出前のダブルチェック体制を構築
返戻パターン4:緊急訪問の記録不備
よくあるケース:緊急訪問を行ったが、記録に「利用者からの緊急の求めがあった」旨の記載がない。
対策:
- 緊急訪問の記録テンプレートを整備
- 「いつ」「誰から」「どのような内容で」連絡があり、「なぜ緊急訪問が必要と判断したか」を必ず記録
- 主治医への報告記録も残す
返戻パターン5:保険種別の誤り
よくあるケース:医療保険対象の利用者(末期がん等)に対し、介護保険の緊急時訪問看護加算で請求してしまう。
対策:
- 利用者ごとの適用保険を台帳で管理
- 保険種別の判断に迷う場合のフローチャートを整備(別記事参照)
- 特に「厚生労働大臣が定める疾病等」に該当する利用者は医療保険適用
実地指導で確認されるポイント
実地指導(運営指導)では、以下の点が重点的に確認されます。
- 同意書の保管状況:全算定利用者分の同意書が揃っているか
- オンコール当番表:月ごとの当番表が作成・保管されているか
- 緊急時対応の記録:
- 電話対応ログ(コール日時、相談内容、対応内容)
- 緊急訪問の記録(訪問日時、訪問理由、実施内容、主治医への報告)
- 連絡先の利用者交付:緊急連絡先を文書で利用者に渡しているか
- 届出書類の整備:届出書と受理通知の保管
- 負担軽減体制の実態(上位区分の場合):当番表・シフト表等で取り組みの実態が確認できるか
経営者が確認すべき3つの数字
経営者が確認すべき3つの数字について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
1. 同意取得率
全利用者のうち、緊急時訪問看護加算の同意を取得している利用者の割合。80%以上を目標に。
同意が取れていない利用者がいる場合、その理由を確認し、再説明の機会を設けましょう。
2. 月間のコール件数と出動率
- 月にどれくらいの緊急コールがあるか
- そのうち何%が実際の訪問(出動)につながっているか
- 出動率が50%を超えている場合、日中のケア内容やトリアージの見直しが必要かもしれません
3. スタッフ一人あたりの月間当番回数
- 8回以下が持続可能な目安
- 10回を超えると離職リスクが急上昇
- 3〜4名体制のステーションでは構造的に月10回以上になるため、対策が急務
オンコール体制の持続可能性を高めるために
24時間対応体制と緊急時訪問看護加算は、ステーションの収益を大きく左右する重要な加算です。しかし、その裏側にあるオンコール当番の負担を放置すれば、スタッフの離職→体制崩壊→加算算定不可という悪循環に陥ります。
体制維持のための打ち手
| 打ち手 | 効果 | コスト |
|---|---|---|
| トリアージマニュアルの整備 | 不要な出動を削減 | 低 |
| 利用者・家族への教育 | 深夜コールの減少 | 低 |
| ICTツール(見守りセンサー等)の導入 | 状態変化の早期把握 | 中 |
| 複数ステーション連携 | 当番頻度の低減 | 中 |
| 事務スタッフによる一次受け体制 | 看護師の電話負担軽減 | 中 |
| 医師への即時相談ルートの確保 | 判断負担の軽減 | 中〜高 |
特に重要なのは「医師への相談ルート」です。 夜間のオンコールで看護師が最も負担に感じるのは、「この症状で出動すべきか」「救急搬送すべきか」という判断の重圧です。すぐに医師に相談できる体制があるだけで、精神的負担は大幅に軽減されます。
まとめ
- 介護保険の「緊急時訪問看護加算」と医療保険の「24時間対応体制加算」は、ともに体制の評価
- 2024年改定で(I)(II)の2区分に再編。上位区分は負担軽減体制の整備が要件
- 医療保険には別途「緊急訪問看護加算」(実際の訪問時に算定)がある
- 返戻を防ぐには、同意書管理・保険種別管理・記録の徹底が鍵
- 加算算定の維持には、オンコール体制の持続可能性を経営課題として捉える視点が不可欠
