この記事でわかること

  • 精神科訪問看護基本療養費の体系の要点と実務対応
  • 算定の前提条件の要点と実務対応
  • 届出方法の要点と実務対応
  • GAF尺度の記載方法の要点と実務対応
  • 精神科訪問看護の開始ステップの要点と実務対応

はじめに:精神科訪問看護は「ブルーオーシャン」

精神科訪問看護は、訪問看護ステーションにとって大きな成長機会です。

  • 精神疾患の患者数は約615万人(令和5年度患者調査)で増加傾向
  • 精神科訪問看護を実施しているステーションは全体の約40%にとどまる
  • 精神科訪問看護基本療養費は一般の基本療養費より報酬が高い
  • 2026年改定で機能強化型4(精神科特化)が新設

一方で、「制度がわかりにくい」「研修が必要」「精神科医との連携方法がわからない」という理由で参入をためらうステーションも少なくありません。

本記事では、精神科訪問看護の算定要件と届出方法を実務レベルで解説し、参入までのステップを具体的に示します。


精神科訪問看護基本療養費の体系

精神科訪問看護基本療養費の体系について、実務で押さえるべきポイントを解説します。

基本療養費の区分と点数(2026年改定後・医療保険)

区分対象30分未満30分以上
精神科訪問看護基本療養費(I)保健師・看護師・作業療法士3,670円5,550円
精神科訪問看護基本療養費(II)准看護師3,170円5,050円
精神科訪問看護基本療養費(III)同一建物複数人利用者数により細分化
精神科訪問看護基本療養費(IV)精神科退院時共同指導8,400円

一般の訪問看護基本療養費(I)は30分以上で5,550円。精神科も同額ですが、精神科特有の加算を組み合わせることで利用者単価を大きく上げられます。

精神科特有の加算

加算名金額条件
精神科複数回訪問加算4,500円/回1日に2回以上訪問(急性増悪等)
精神科重症患者支援管理連携加算8,400円/月多機関連携による支援
長時間精神科訪問看護加算5,200円/回90分超の訪問

算定の前提条件

算定の前提条件について、実務で押さえるべきポイントを解説します。

条件1:精神科訪問看護指示書の取得

精神科訪問看護を行うためには、精神科を担当する医師から「精神科訪問看護指示書」を取得する必要があります。

項目詳細
発行できる医師精神科を標榜する保険医療機関の医師
有効期間発行日から6ヶ月以内
記載内容病名、GAF尺度、症状・状態、看護・リハビリの指示内容

重要:一般の訪問看護指示書(内科等の主治医)とは別に、精神科の指示書が必要です。

条件2:対象疾患

精神科訪問看護の対象は、以下のような精神疾患を有する利用者です。

  • 統合失調症
  • うつ病・双極性障害(気分障害)
  • 認知症(BPSDが顕著な場合)
  • 発達障害
  • 不安障害・強迫性障害
  • PTSD
  • 摂食障害
  • アルコール・薬物依存症
  • てんかん(精神症状を伴う場合)

条件3:看護師の研修要件

精神科訪問看護を行う看護師は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

要件詳細
精神科を標榜する保険医療機関での勤務経験1年以上の実務経験
精神科訪問看護に関する研修の修了都道府県・指定研修機関が実施する研修
精神保健福祉士の資格資格を有する場合

対策:研修は各都道府県の看護協会等が年に数回開催しています。オンライン研修も増えており、受講のハードルは下がっています。


届出方法

届出方法について、実務で押さえるべきポイントを解説します。

届出先

地方厚生(支)局に「精神科訪問看護基本療養費に係る届出」を提出します。

届出に必要な書類

  1. 精神科訪問看護の実施に関する届出書
  2. 看護師等の研修修了証のコピー(または精神科勤務経験の証明)
  3. 事業所の概要(人員体制等)

届出のタイミング

  • 精神科訪問看護を開始する前月末までに届出
  • 届出受理後に算定開始

GAF尺度の記載方法

精神科訪問看護指示書にはGAF(機能の全体的評定)尺度の記載が必要です。

GAFスコアの目安

スコア状態の目安
91〜100症状なし。広範囲の活動で優れた機能
71〜80症状があっても一過性。社会的機能はわずかに障害
51〜70中等度の症状。社会的・職業的機能に中等度の困難
31〜50重篤な症状。社会的・職業的機能に重大な障害
11〜30行動が妄想・幻覚に影響される。ほとんどの領域で機能障害
1〜10持続的に自他を傷つける危険

訪問看護記録にもGAFスコアの変化を記録しておくと、実地指導時に適切なアセスメントの根拠を示せます。


精神科訪問看護の開始ステップ

精神科訪問看護の開始ステップについて、実務で押さえるべきポイントを解説します。

Step 1:看護師の研修受講(1〜3ヶ月)

  • 各都道府県の看護協会、精神科看護協会等が実施する研修を受講
  • オンライン研修の場合、数日〜1週間程度で修了可能
  • 既に精神科勤務経験1年以上の看護師がいれば研修不要

Step 2:精神科医との連携構築(1〜2ヶ月)

  • 精神科クリニック・病院に連携を打診
  • 精神科訪問看護指示書の発行を依頼
  • D to P with Nの活用:精神科医不足地域では、オンライン診療に対応する精神科医との連携が特に有効

Step 3:届出の提出(1ヶ月)

  • 地方厚生局への届出書類を準備・提出
  • 受理通知の確認

Step 4:対象利用者の受け入れ(随時)

  • 精神科の主治医からの紹介
  • 退院支援カンファレンスでの受け入れ
  • 地域の相談支援事業所・保健所からの紹介

Step 5:運用の安定化(3〜6ヶ月)

  • 精神科アセスメントの標準化(GAF、服薬管理、危機介入の判断基準)
  • スタッフ間のケースカンファレンスの定期開催
  • 精神科医との定期連携会議(月1回程度)

精神科訪問看護×D to P with Nの可能性

2026年改定で、精神科訪問看護とD to P with Nを組み合わせる大きな可能性が開けました。

具体的なシナリオ

  1. 精神科医不足地域での専門医アクセス

    • 地域に精神科医がいなくても、オンラインで精神科医にアクセス可能
    • 看護師が利用者宅で精神状態を評価→精神科医がオンラインで診察
  2. 向精神薬の処方変更

    • 服薬状況の悪化時に、看護師同席でオンライン診察
    • 電子処方箋による即時の処方変更→薬局に送信
  3. 危機介入時の医師判断

    • 自傷行為のリスクが高まった場合、その場で精神科医に接続
    • 入院の必要性の判断を医師と共有
  4. 機能強化型4の取得

    • 2026年新設の機能強化型4は精神科訪問看護で地域連携実績が要件
    • D to P with Nによる精神科医連携は実績のエビデンスになる

算定の組み合わせ例(月間・1利用者)

項目金額
精神科訪問看護基本療養費(I)×4回22,200円
訪問看護管理療養費7,670円+3,000円×3
訪問看護遠隔診療補助料(D to P with N)×1回2,650円
24時間対応体制加算6,800円
月間合計約48,320円

よくある質問

よくある質問について、実務で押さえるべきポイントを解説します。

Q1:認知症の利用者も精神科訪問看護の対象になりますか?

はい。認知症(特にBPSDが顕著な場合)は精神科訪問看護の対象です。ただし、精神科を標榜する医師からの精神科訪問看護指示書が必要です。

Q2:一般の訪問看護指示書と精神科訪問看護指示書の両方が必要ですか?

精神科訪問看護を行う場合は、精神科訪問看護指示書が必要です。身体的なケアも並行して行う場合は、一般の指示書と精神科の指示書の両方が必要になる場合があります。

Q3:精神科の研修を受けていない看護師しかいません。

各都道府県の看護協会等が実施する精神科訪問看護に関する研修を受講してください。オンライン研修も増えており、数日〜1週間で修了可能です。研修修了後に届出を行えば算定開始できます。

Q4:精神科医が地域にいません。指示書をもらえません。

2026年改定でD to P with Nが制度化されたことにより、オンラインで精神科医と連携することが現実的な選択肢になりました。オンライン診療に対応する精神科クリニックと連携し、D to P with Nの枠組みで指示書の発行と診察を受けることを検討してください。


まとめ

ポイント内容
市場機会精神疾患患者615万人、実施ST約40%。成長余地大
算定要件精神科訪問看護指示書+研修修了看護師+届出
報酬水準一般と同等〜加算で上乗せ可能
2026年の追い風機能強化型4新設、D to P with Nで精神科医アクセス改善
最大の障壁精神科医との連携 → D to P with Nで解決可能に

精神科訪問看護は、制度理解と医師連携さえクリアすれば、ステーションの成長を大きく加速させる領域です。2026年改定のD to P with N制度化を追い風に、参入を検討してみてください。