この記事でわかること
- D to P with Nとはの要点と実務対応
- 2026年改定で何が変わったのかの要点と実務対応
- 訪問看護ステーションが算定できる報酬の要点と実務対応
- 訪問看護師にとっての5つのメリットの要点と実務対応
- 活用シーン別の具体例の要点と実務対応
はじめに:訪問看護の「一人で判断する不安」を解消する仕組み
訪問看護師の多くが抱える不安。それは「利用者宅で一人で判断しなければならない」ということです。
バイタルが急変した。傷の状態が悪化している。精神状態が不安定になっている。 こんなとき、すぐに医師に相談できたら——。
D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)は、まさにその「すぐ相談できる」を実現する仕組みです。
2026年(令和8年)の診療報酬改定で、この仕組みが初めて本格的に診療報酬で評価されました。訪問看護にとって、過去10年で最大のゲームチェンジャーです。
D to P with Nとは
D to P with Nとはについて、実務で押さえるべきポイントを解説します。
オンライン診療の3つの形態
| 形態 | 構成 | 特徴 |
|---|---|---|
| D to P | 医師 ←オンライン→ 患者 | 医師と患者が直接つながる基本形 |
| D to P with D | 専門医 ←オンライン→ 患者+かかりつけ医 | 患者のそばに別の医師がいる |
| D to P with N | 医師 ←オンライン→ 患者+看護師 | 患者のそばに看護師がいる |
D to P with Nの流れ
[訪問看護師が利用者宅を訪問]
↓
[バイタル測定・状態観察]
↓
[タブレット等で医師とビデオ通話を開始]
↓
[看護師が医師に状態を報告]
↓
[医師が映像+看護師の報告をもとに診察]
↓
[医師の指示に基づき看護師が検査・処置を実施]
↓
[医師が患者・家族に直接説明]
↓
[診療録・訪問看護記録に記載]
なぜD to P with Nが重要なのか
通常のオンライン診療(D to P)には弱点があります。
- 画面越しでは触診ができない
- バイタル測定を患者自身がやらなければならない
- 高齢者はデバイス操作が困難
- 医師は画面の向こうの状態しか把握できない
D to P with Nでは、看護師が「医師の手と目」として現場にいることで、これらの弱点をすべて補えます。
2026年改定で何が変わったのか
2026年改定で何が変わったのかについて、実務で押さえるべきポイントを解説します。
Before(2024年まで)
- D to P with Nは制度上へき地・離島に限定
- 訪問看護ステーション側の報酬はなし
- 活用する訪問看護ステーションはほぼゼロ
After(2026年改定)
- へき地限定が撤廃。全国どこでも実施可能に
- 訪問看護遠隔診療補助料2,650円/月が新設
- 医師側にも検査・注射・処置の実施料が新設
- 定期訪問中のD to P with Nは追加費用なしで実施可能と明確化
訪問看護ステーションが算定できる報酬
訪問看護ステーションが算定できる報酬について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
パターン別の算定整理
| パターン | ST側の算定 | 医師側の算定 |
|---|---|---|
| A. 定期訪問中にD to P with N | 通常の訪問看護療養費(変更なし) | オンライン診療料+検査/処置実施料 |
| B. 単独のD to P with N訪問 | 訪問看護遠隔診療補助料 2,650円/月1回 | オンライン診療料+検査/処置実施料 |
| C. 指示書なしのD to P with N | 医療機関が算定し、STと費用分配 | 訪問看護遠隔診療補助料265点 |
訪問看護遠隔診療補助料の算定要件
| 要件 | 詳細 |
|---|---|
| 対象 | 主治医から有効な訪問看護指示書を受けている利用者 |
| 実施内容 | 定期的な訪問看護計画以外で、D to P with Nの補助を行う |
| 回数制限 | 同一利用者につき月1回 |
| 併算定 | 同一日に訪問看護基本療養費等との併算定不可 |
| 事業所制限 | 同一利用者につき1つのステーションでのみ算定 |
| 記録 | 実施日時、内容、対応状況を訪問看護記録書に記載 |
| 費用分配 | 医療機関とSTの間で合議の上、費用を精算 |
訪問看護師にとっての5つのメリット
訪問看護師にとっての5つのメリットについて、実務で押さえるべきポイントを解説します。
メリット1:「一人で判断する不安」からの解放
訪問看護最大のストレス要因は、利用者宅で一人で医学的判断を求められることです。D to P with Nがあれば、その場で医師に相談し、判断を共有できます。
メリット2:オンコール時の判断支援
夜間のオンコールで緊急訪問した際、「出動したけど、この後どうすべきか」という場面で医師にリアルタイムで相談できます。救急搬送すべきか、在宅で様子を見てよいかの判断を一人で背負わなくて済みます。
メリット3:専門医へのアクセス
精神科、皮膚科、緩和ケアなど、普段アクセスが難しい専門医に訪問先から直接つながれます。特に精神科医不足地域では、精神科訪問看護の実施に大きな力になります。
メリット4:利用者・家族への説明の負担軽減
「先生からも説明してほしい」という家族の要望に、その場で応えられます。看護師が医師の説明を「伝言」する必要がなくなり、コミュニケーションの正確性と信頼感が向上します。
メリット5:スキルアップの機会
医師の診察・判断プロセスをリアルタイムで学べます。「この症状のときに医師はこう考える」という臨床推論の過程を間近で見ることが、看護師自身のアセスメント力向上につながります。
活用シーン別の具体例
活用シーン別の具体例について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
シーン1:看取り期の夜間急変
状況:夜間オンコールで看取り期の利用者から連絡。「呼吸が変わった気がする」と家族が不安。
D to P with Nがない場合:看護師が単独で訪問、チェーンストークス呼吸か判断に迷う。主治医に電話するが繋がらない。家族は不安で救急車を呼びたがる。
D to P with Nがある場合:看護師が訪問し、タブレットで連携医師にビデオ接続。医師が映像と看護師の報告で状態を評価。「自然な経過です。このまま看取りの方針で」と家族に直接説明。家族は安心し、在宅看取りが実現。
シーン2:精神科利用者の状態悪化
状況:統合失調症の利用者が「薬を飲んでいない」と訴え。幻聴が再燃している様子。
D to P with Nがない場合:看護師が服薬指導を行うが、処方変更の必要性は判断できない。次の精神科受診は3週間後。受診日まで悪化するリスク。
D to P with Nがある場合:看護師が精神科医にビデオ接続。医師がMSE(精神状態検査)をオンラインで実施。「頓服の追加処方を出します」と即座に対応。電子処方箋で薬局に送信。
シーン3:褥瘡の悪化
状況:褥瘡の処置中、創部の状態が前回より悪化していることに気づく。
D to P with Nがない場合:写真を撮って主治医にメール。返信を待つ間に不安。翌日の返答で処置方法が変更になるが、24時間のタイムラグ。
D to P with Nがある場合:その場で皮膚科医にビデオ接続。医師がカメラ越しに創部を確認。「デブリードマンの範囲をもう少し広げて」と即座に指示。看護師がその場で処置を実施。
シーン4:小児の急変
状況:医療的ケア児の人工呼吸器のアラームが鳴り、SpO2が低下。
D to P with Nがない場合:看護師が吸引等の対応を行うが改善しない。主治医に電話するも、電話では状況が伝わりにくい。
D to P with Nがある場合:看護師がタブレットで小児科医に即座に接続。映像で呼吸状態を共有。「回路の確認をして」「体位を変えて」と医師がリアルタイムで指示。改善しない場合は「搬送してください」と即断。
導入に必要な準備
導入に必要な準備について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
ICT環境
| 項目 | 推奨 | 費用目安 |
|---|---|---|
| タブレット | iPad(10インチ以上推奨) | 5〜10万円 |
| モバイル通信 | 4G/5G対応(下り20Mbps以上) | 月3,000〜5,000円 |
| オンライン診療プラットフォーム | CLINICS、curon等 or 連携医療機関指定のシステム | 月0〜1万円 |
| セキュリティ | VPN、端末管理(MDM) | 月1,000〜3,000円 |
連携体制の構築
- 連携医療機関の確保:D to P with Nに対応する医師・クリニックとの連携協定
- オンライン診療の手順整備:接続テスト、緊急時の代替手段(電話)の確保
- 利用者への説明と同意:オンライン診療の説明と同意取得の標準化
- 記録ルールの整備:訪問看護記録書への記載ルールを策定
スタッフ教育
- D to P with Nの制度的理解(算定要件、記録方法)
- タブレット操作・ビデオ通話のトレーニング
- 医師に効率よく情報を伝えるためのSBAR等の報告フレームワーク研修
- 個人情報保護・セキュリティ教育
よくある質問(Q&A)
よくある質問(Q&A)について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
Q1:すべての利用者にD to P with Nを使えますか?
制度上の対象疾患の制限はありませんが、「緊急に診療を要し、通院が困難な患者」が対象です。定期的・計画的なオンライン診療の代替としては使えません。
Q2:主治医以外の医師でもD to P with Nはできますか?
可能です。ただし、主治医との情報共有が前提です。例えば、精神科の利用者に対して、主治医(内科)とは別に精神科専門医がD to P with Nで診察するケースが考えられます。
Q3:夜間のオンコール中にもD to P with Nは使えますか?
利用者宅に看護師が訪問している状態であれば、時間帯に関係なく実施可能です。夜間の緊急訪問時に医師にオンラインで相談する使い方は、まさにD to P with Nの真価が発揮される場面です。
Q4:オンコール代行サービスとの違いは?
全く異なるものです。オンコール代行は「利用者からの電話を外部が一次受けする」もので、制度上、加算要件を満たしません。D to P with Nは「医師が正式にオンライン診療を行う」行為であり、診療報酬で正当に評価されます。
Q5:OnMe等のプラットフォームは必要ですか?
専用プラットフォームがあると効率的ですが、既存のオンライン診療システム(CLINICS、curon等)でも実施可能です。将来的には、訪問看護に特化したD to P with N専用プラットフォームの登場も期待されています。
ステーション経営への影響
ステーション経営への影響について、実務で押さえるべきポイントを解説します。
収益面
| 項目 | 月額インパクト(利用者30名想定) |
|---|---|
| 訪問看護遠隔診療補助料(月10名×2,650円) | +26,500円/月 |
| 精神科利用者の新規受け入れ(5名×精神科基本療養費) | +277,500円/月 |
| 医師連携による加算算定率の向上 | +数万円/月 |
競争力
- 採用訴求力:「医師にいつでも相談できる」は看護師にとって大きな魅力
- 営業訴求力:「医師連携体制あり」でケアマネ・病院からの紹介が増加
- 離職防止:オンコールの精神的負担が軽減→離職率低下
- 差別化:D to P with Nをいち早く導入しているステーションは、現時点ではまだ少数
まとめ
D to P with Nは、訪問看護の「一人で判断する」という構造的な課題を、テクノロジーで解決する仕組みです。
2026年改定で初めて本格的に診療報酬で評価されたこの仕組みを、早期に導入するステーションほど、採用・営業・ケアの質のすべてで優位に立てます。
まずは連携可能な医療機関を見つけ、1名の利用者から試行的に始めてみることをお勧めします。
