カスタマーハラスメント対策がなぜ今、訪問看護の経営課題になるのか
労働施策総合推進法の改正により、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務として法律に明記されることになりました。これまでパワーハラスメント防止措置は義務でしたが、顧客や取引先等からのハラスメント、いわゆるカスタマーハラスメントについては明確な法的義務がなく、企業の自主的な取り組みに委ねられてきました。今回の改正はこの状況を変えるものです。
訪問看護ステーションにとってこの改正は他業種以上に重要な意味を持ちます。利用者宅という密室で看護師が1人で対応する場面が多く、暴言や威圧的な態度、身体的接触の強要といった行為が発生しても、同僚や上司の目が届きにくい構造があるためです。管理者がこの改正の内容を正しく理解し、施行前から体制を整えておくことが、スタッフの安全確保と離職防止の両面で求められています。
カスタマーハラスメント防止措置はいつから義務化されるのか
改正労働施策総合推進法は2025年の通常国会で成立しました。施行時期については、公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日とされています。つまり正式な施行日は今後公布される政令によって確定するため、現時点で具体的な年月日を断定することはできません。ただし準備にかかる期間を考えると、施行を待ってから着手するのではなく、今のうちに体制整備を進めておくことが現実的な対応です。
事業主に求められる具体的な措置内容
改正法で求められる防止措置の具体的な内容は、今後の指針やガイドラインで示されることになりますが、既存のパワーハラスメント防止指針の枠組みが参考になります。想定される主な措置は次の通りです。
- 事業主の方針の明確化と周知啓発
- 相談に応じ適切に対応するための体制整備(相談窓口の設置)
- ハラスメント発生時の迅速かつ適切な事実確認と対応
- 被害を受けた労働者へのケアと再発防止策の実施
- プライバシー保護や相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止
厚生労働省が公表しているカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでは、顧客等からの著しい迷惑行為に対する基本方針の策定、対応フローの整備、従業員への研修実施などが推奨されています。訪問看護ステーションもこの枠組みに沿って体制を整えることが求められます。
訪問看護特有のカスタマーハラスメントのリスクと特徴
訪問看護における利用者や家族からのハラスメントには、他業種とは異なる特徴があります。
| 特徴 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 密室性 | 利用者宅に1人で訪問するため目撃者がいない |
| 継続的な関係 | 同じ利用者を長期間担当するため関係を切りにくい |
| 医療行為の性質 | 身体接触を伴うケアが多く境界線があいまいになりやすい |
| 精神科訪問看護特有の事情 | 症状に起因する言動との区別が難しい場面がある |
| 緊急対応時の脆弱性 | 夜間単独訪問時は応援を呼びにくい状況がある |
こうした特徴を踏まえると、画一的なマニュアルをそのまま適用するのではなく、訪問看護の業務実態に合わせた対応フローを設計する必要があります。
管理者が今から準備すべき実務チェックリスト
施行日が確定していない段階でも、着手できる準備は多くあります。以下のチェックリストを活用して現状を確認してください。
- 相談窓口の担当者と連絡方法を決めているか
- ハラスメントの定義や判断基準をスタッフに周知しているか
- 発生時の初動対応(訪問中止、応援要請、管理者への報告)の手順を文書化しているか
- インシデント報告書にハラスメント専用の記録欄を設けているか
- 悪質なケースについて契約解除やケアマネジャーへの相談を含めた対応方針を定めているか
- 新人研修や定期研修にハラスメント対応の項目を組み込んでいるか
- 被害を受けたスタッフへのフォロー体制(面談、配置転換の検討等)を整えているか
これらは特別な費用をかけずに着手できる項目が多く、施行を待たずに進めることができます。
相談体制の整備と記録の残し方
相談体制を整える際は、相談窓口を誰が担うのかを明確にし、スタッフ全員に周知することが出発点になります。小規模な事業所では管理者が窓口を兼ねることも多いですが、管理者自身が関係する事案も想定し、法人内の別部署や外部相談窓口への接続ルートも用意しておくと安心です。
記録については、発生日時、利用者名、具体的な言動、対応したスタッフ、その場での初動対応、管理者への報告内容を項目化した様式を準備しておくことが重要です。記録が蓄積されることで、同一利用者からの繰り返しの行為を可視化でき、ケアマネジャーや主治医との情報共有、必要に応じた契約見直しの判断材料にもなります。
まとめ
カスタマーハラスメント防止措置の義務化は、施行日こそ政令の公布を待つ段階ですが、訪問看護ステーションにとって避けて通れない制度対応です。利用者宅での1対1対応という業務特性上、他業種以上に丁寧な体制整備が求められます。相談窓口の設置、対応フローの文書化、記録様式の整備といった準備は今から始められるものばかりです。施行後に慌てて対応するのではなく、スタッフが安心して働ける環境づくりの一環として、早めの着手を検討してください。
出典
- 厚生労働省 カスタマーハラスメント対策 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
- 厚生労働省 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
- 厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント防止のための雇用管理上講ずべき措置等についての指針