D to P with Nの記録がなぜ監査で重視されるのか
D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)は、訪問看護師が患者宅に同席し、医師とオンラインで結んで診療を行う仕組みです。実地指導や適時調査では、実際に対面診療と同等の医療行為が行われたかを記録で確認するため、記録の質がそのまま算定の正当性を左右します。
特に令和8年度改定以降は、D to P with Nを活用した場面が増える一方で、記録が不十分なまま算定しているケースが増加傾向にあります。記録が曖昧だと、算定した診療報酬そのものが返戻・返還の対象になりかねません。
監査で確認される主なポイント
監査官が確認するのは主に次の3点です。
- 実際にオンライン診療が行われた事実が記録から確認できるか
- 訪問看護師が単なる機器操作者ではなく看護専門職として関与した記録があるか
- 医師の指示内容と看護師の実施内容に整合性があるか
この3点を満たさない記録は、たとえ実際には適切に実施していても指摘対象になり得ます。
記録に必須の5項目
D to P with Nの記録には、最低限次の5項目を漏れなく記載する必要があります。
1. 実施日時(開始・終了の分単位)
日付だけでなく、開始時刻と終了時刻を分単位で記載します。診療時間が極端に短い場合、実質的な診療が行われたか疑義を持たれやすいため、時間の妥当性も意識してください。
2. 参加者の明記
医師の氏名、同席した看護師の氏名、患者本人か家族代理かの別を明記します。家族が同席した場合は、その理由(本人の認知機能低下など)も一言添えると説明力が増します。
3. 通信環境・使用機器の記録
使用した機器名、通信回線の状態、映像・音声の品質を簡潔に記載します。トラブルがあった場合は発生時刻と対応内容を必ず残します。
4. 医師の指示内容
診療の結果として医師が出した指示(処方変更、次回受診時期、経過観察の指示など)を具体的に記載します。「診察実施」とだけ書くのは不十分です。
5. 看護師の観察・アセスメント
バイタルサイン、患部の状態、患者の表情や訴え、看護師としての判断を記載します。ここが手薄になると、看護師の同席が単なる立ち会いとみなされ、算定要件を満たさないと判断されるリスクがあります。
記録テンプレートの例
実務で使いやすいテンプレート構成を紹介します。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 実施日時 | 2026年4月10日 10時15分〜10時32分 |
| 参加者 | 医師:〇〇、看護師:〇〇、患者本人同席 |
| 通信状況 | タブレット端末、Wi-Fi接続、映像・音声良好 |
| 医師指示 | 創部の消毒方法変更、次回訪問時に再評価 |
| 看護師観察 | 創部発赤軽減、疼痛スケール2、患者の食欲改善傾向 |
| 特記事項 | 家族より服薬管理への不安の訴えあり、次回訪問で確認予定 |
この形式をカルテソフトや記録様式に組み込んでおくと、記載漏れを構造的に防げます。
よくある指摘事例と対策
事例1 後日まとめて記載していた
訪問看護記録は原則として実施当日中の記載が求められます。数日分をまとめて記載していたケースでは、記録の信頼性そのものが疑われ、複数月にわたる算定が一括で返還対象になった例もあります。当日中の記録完了をルール化しましょう。
事例2 医師の指示内容が抽象的だった
「経過観察」とだけ記載され、具体的な指示内容が読み取れないケースです。医師との連携時に、指示内容を復唱して確認し、その場で記録に反映する運用が有効です。
事例3 看護師の関与が形式的に見えた
観察記録が数行程度で、看護専門職としての判断が見えないケースです。バイタルサインだけでなく、患者の生活状況や心理面への言及を加えることで、看護の専門性を記録上でも示せます。
監査対策チェックリスト
運用に落とし込むためのチェックリストを用意しました。月次で自己点検すると効果的です。
- 実施当日中に記録を完了しているか
- 開始・終了時刻を分単位で記載しているか
- 参加者全員の氏名と役割を明記しているか
- 通信トラブルの有無と対応を記載しているか
- 医師の指示内容を具体的に記載しているか
- 看護師の観察・判断内容を客観的データとともに記載しているか
- 患者・家族の反応や訴えを記載しているか
- 次回訪問・受診の予定を記載しているか
- 記録者の署名または記名がされているか
- 記録が電子カルテと訪問看護記録の両方で整合しているか
10項目のうち1つでも未達があれば、その場で修正するルールを事業所内で徹底することをおすすめします。
報告書作成時の注意点
訪問看護報告書にD to P with Nの実施内容を反映する際は、単発の出来事として記載するのではなく、訪問看護計画との関連性を明示することが重要です。例えば、計画書に記載した目標(褥瘡改善、服薬管理の安定化など)に対して、D to P with Nの実施がどのように寄与したかを一文加えるだけで、記録の説明力が格段に上がります。
また、複数回のD to P with Nを実施した場合は、報告書内で経過を時系列にまとめ、状態の変化が追える形式にすると、審査担当者にも理解されやすくなります。
記録の質を組織で担保する仕組み
個人の記載スキルに依存すると、担当者によって記録の質にばらつきが出ます。次の仕組みを整えることで、組織として記録の質を担保できます。
- 記録テンプレートの統一とカルテシステムへの組み込み
- 管理者またはサービス提供責任者による週次の記録チェック
- 新任スタッフへのD to P with N記録研修の実施
- 指摘事例を共有するミニ勉強会の定期開催
特に管理者による週次チェックは、記録漏れを早期に発見できる最も効果的な方法です。月末にまとめて確認すると、修正が困難な件数まで積み上がってしまうため注意してください。
まとめ
D to P with Nは今後の在宅医療において活用場面が広がる仕組みですが、記録の不備は算定そのものの正当性を揺るがします。実施日時、参加者、通信状況、医師指示、看護師の観察という5項目を当日中に記載することを基本ルールとし、テンプレート化と定期的な自己点検で組織的に質を担保することが、監査対応の最も確実な備えになります。記録は事後の証拠ではなく、日々の看護実践そのものを可視化する手段であるという意識を、スタッフ全体で共有していくことが大切です。
