複数名訪問看護加算とは何か
複数名訪問看護加算は、看護師等が2名(または看護師等と看護補助者)で同時に訪問した場合に、訪問看護基本療養費や介護保険の訪問看護費に上乗せして算定できる加算です。単独訪問では実施が困難な処置や、安全確保のために複数人での対応が必要な場面を想定した制度設計になっています。
算定できるかどうかは、単に「2人で行った」という事実だけでは判断できません。利用者の状態が算定要件に該当しているかどうか、そしてその根拠が記録に残っているかどうかが、算定の適否を分ける重要なポイントです。
医療保険と介護保険で何が違うのか
複数名訪問看護加算は、医療保険と介護保険のどちらで訪問看護を提供しているかによって、単位数や組み合わせのパターンが異なります。ステーション内で混在して運用している場合、担当者ごとの理解のずれが算定ミスにつながりやすい部分です。
| 区分 | 対象保険 | 訪問時間 | 組み合わせパターン |
|---|---|---|---|
| 複数名訪問看護加算(イ) | 医療保険 | 30分未満/30分以上 | 看護師等+看護師等・准看護師 |
| 複数名訪問看護加算(ロ) | 医療保険 | 30分未満/30分以上 | 看護師等+看護補助者 |
| 複数名訪問看護加算Ⅰ | 介護保険 | 30分未満/30分以上 | 看護師等2名 |
| 複数名訪問看護加算Ⅱ | 介護保険 | 30分未満/30分以上 | 看護師等+看護補助者等 |
単位数は改定ごとに見直されるため、算定時は最新の告示・通知を必ず確認してください。目安としては、看護師等2名同行の場合の方が、看護補助者同行の場合よりも単位数が高く設定される構造になっています。
対象者の判断基準はどう整理すればよいか
複数名訪問看護加算の対象者は、制度上おおむね次の5パターンに整理できます。管理者やサービス提供責任者が算定判断をする際は、このいずれに該当するかを明確にしておくことが重要です。
パターン1 厚生労働大臣が定める者に該当する場合
特別な管理を要する状態にある利用者など、告示で定められた状態に該当する場合です。特別管理加算の対象者と重なるケースが多く、両方の算定要件を照らし合わせて確認する必要があります。
パターン2 主治医が複数名訪問を必要と認めた場合
訪問看護指示書や特別指示に、複数名訪問が必要である旨の医師の判断が明記されているケースです。指示書に記載がない場合は、主治医への確認と記録の追記依頼を行います。
パターン3 身体的理由により1人での訪問が困難な場合
体格が大きく体位変換や移乗介助に複数人が必要な利用者、拘縮が強く処置に複数の手が必要な利用者などが該当します。具体的には次のような状態が判断材料になります。
- 体重が重く、1人では安全な体位変換や入浴介助ができない
- 四肢の拘縮が強く、清拭や更衣に複数人の介助を要する
- 気管カニューレや複数のカテーテル管理があり、同時に複数の処置が必要
パターン4 暴力行為や著しい迷惑行為が認められる場合
利用者本人からの暴力や、家族からのハラスメント行為があるケースです。精神科訪問看護の現場では、不穏時の対応や自傷他害のリスクがある場合にこのパターンに該当することが多くあります。安全配慮義務の観点からも、複数名訪問への切り替えを検討すべき状況です。
パターン5 その他、複数名訪問が必要と判断される場合
上記に明確に当てはまらないものの、状況全体から複数名での訪問が妥当と判断されるケースです。このパターンで算定する場合は、他のパターンよりも記録の説明力が問われるため、判断根拠を具体的に残すことが特に重要になります。
対象者判断チェックリスト
算定前に、次の項目を確認しておくと判断のブレを防げます。
- 訪問看護指示書に複数名訪問の必要性が記載されているか
- 特別管理加算の対象者と状態が重なっているか
- 過去の訪問記録に単独訪問時のリスク事象が記録されているか
- 利用者・家族に複数名訪問の説明と同意を得ているか
- 看護記録に複数名で訪問した具体的な理由が記載されているか
算定パターン別の考え方早見表
実務でよくある場面を、算定パターンに当てはめると次のように整理できます。
| 現場の状況 | 該当しやすいパターン | 記録のポイント |
|---|---|---|
| 終末期で全身状態が不安定 | パターン1・2 | 主治医の指示内容と状態変化を具体的に記載 |
| 体重増加による移乗介助困難 | パターン3 | 体重・介助方法・1人では困難な理由を明記 |
| 精神症状による不穏・攻撃性 | パターン4 | 具体的なエピソードと安全確保の必要性を記載 |
| 医療処置が複雑で同時対応が必要 | パターン3・5 | 処置内容と役割分担を記録 |
記録で失敗しないためのポイント
複数名訪問看護加算は、返戻や査定の対象になりやすい加算の一つです。記録面で意識しておきたいポイントを整理します。
- 訪問開始と終了時刻を2名分それぞれ記録する
- 複数名で訪問した理由を、その日の状態に即して具体的に記載する(前回と同じ文言のコピーは避ける)
- 30分未満と30分以上の区分は、実際の訪問時間と一致させる
- 主治医の指示に基づく場合は、指示書または指示内容の記録と紐づける
- 看護補助者同行の場合は、補助者の業務範囲が適切かを確認する
よくある算定ミスと対策
実務でありがちなミスとして、次のようなケースが挙げられます。
- 単独訪問で対応可能な状態にもかかわらず、慣例的に2人体制を続けて算定してしまう
- 訪問時間の区分(30分未満・30分以上)と実際の記録時間が一致していない
- 対象者の状態変化があったにもかかわらず、記録の理由づけが更新されていない
- 介護保険と医療保険の単位数体系を混同して請求する
対策としては、複数名訪問が必要な利用者を一覧化し、月次でパターン1から5のいずれに該当するかを見直す運用が有効です。状態が改善して単独訪問が可能になった場合は、加算の見直しも忘れずに行います。
まとめ
複数名訪問看護加算は、利用者の安全確保と看護師の負担軽減の両面から重要な加算ですが、対象者の判断基準を正しく理解していないと算定漏れや返戻につながります。医療保険と介護保険での単位数の違いを整理したうえで、対象者を5つのパターンに当てはめ、月次で見直す運用を取り入れることで、算定の正確性と収益の安定を両立させることができます。制度改定のたびに単位数や要件が見直されるため、最新の告示内容を確認する習慣も併せて持っておくことをお勧めします。
