訪問看護ステーションの収益構造はどうなっているか

訪問看護ステーションの経営は、サービス業の中でも特に人件費の比重が大きい構造を持っています。看護師や理学療法士などの専門職が利用者宅を一件ずつ訪問するサービスである以上、設備投資よりも人の稼働が収益の源泉になるためです。この構造自体は訪問看護に限らず訪問介護やデイサービスなど在宅系サービス全般に共通しますが、訪問看護は専門職の配置義務や24時間対応体制といった制度要件があるため、他業種よりも人件費の変動要因が多いという特徴があります。

経営者や管理者が人件費率を気にするのは自然なことですが、人件費率という単一の指標だけを見て良し悪しを判断すると、加算取得による収益改善のチャンスを見落とすことがあります。本記事では人件費率の考え方を整理したうえで、加算取得がどのように人件費率と収支差率に影響するかを解説します。

人件費率とは何を指すか

人件費率とは、売上高や総収益に対して人件費が占める割合を指す経営指標です。給与だけでなく法定福利費や賞与引当金、通勤手当なども含めて算出するのが一般的です。訪問看護ステーションの収支状況は、厚生労働省が実施する介護事業経営実態調査で把握することができ、サービス種別ごとの給与費割合や収支差率が公表されています。自事業所の人件費率が高いか低いかを判断する際は、この調査結果を参照し、自事業所の規模や提供体制に近い事業所の傾向と比較することが基本になります。

人件費率はどこまで許容できるのか

人件費率に一律の正解値は存在しません。これは訪問看護に限った話ではなく、労働集約型サービス全般にいえることです。重要なのは人件費率そのものよりも、人件費率と収支差率をセットで見ることです。

人件費率が高くても、加算取得によって一件あたりの単価が上がっていれば、収支差率は健全な水準を保てます。逆に人件費率が低く見えても、加算の取りこぼしによって単価が低いまま稼働していれば、職員一人あたりの生産性は改善されません。したがって経営判断の軸は次の三つに整理できます。

  1. 人件費率そのものの水準
  2. 収支差率(収益から費用を差し引いた割合)
  3. 職員一人あたりの売上高(生産性)

この三つを並べて見ることで、人件費が高いこと自体が問題なのか、それとも単価が低いことが問題なのかを切り分けることができます。

人件費率が高くても健全なケース

看護師比率が高く、重症度の高い利用者を多く担当している場合、特別管理加算やターミナルケア加算など専門性の高いケアに対する加算を取得できていれば、人件費の増加分を収益で吸収できます。この場合、人件費率が高いこと自体はネガティブな指標ではありません。

人件費率が低くても注意が必要なケース

非常勤職員の比率が高く固定費を抑えられている一方で、加算の算定率が低く稼働一件あたりの単価が伸びていない場合、人件費率は低く見えても収支差率も同時に低いことがあります。このケースでは人件費を削る方向ではなく、加算取得による単価改善を検討すべきです。

加算取得が人件費率に与える影響とは

加算は性質によって人件費への影響が大きく異なります。加算を検討する際は、人件費が増える加算と、人件費をほとんど増やさずに収益だけが積み上がる加算を区別して考えることが重要です。

人員配置の増員が前提になりやすい加算

緊急時訪問看護加算や複数名訪問看護加算、長時間訪問看護加算、看護体制強化加算などは、24時間対応体制の維持や複数名での訪問、手厚い看護体制の整備が要件に含まれており、人員を増やす、あるいはオンコール対応のための人件費を追加で確保する必要が生じやすい加算です。これらの加算は収益への寄与が大きい一方で、人件費率を押し上げる要因にもなります。取得を検討する際は、増加する人件費と見込まれる加算収益を試算したうえで判断することが欠かせません。

体制整備や記録対応が中心で人件費増加が限定的な加算

特別管理加算やターミナルケア加算、サービス提供体制強化加算、退院支援指導加算などは、既存の人員体制の中で算定要件を満たせる場合が多く、記録や計画書の整備、研修の実施といった運用面の対応が中心になります。これらの加算は、既に対象となる利用者がいるにもかかわらず算定していない、いわゆる算定漏れが起きやすい加算でもあります。人件費を増やさずに収益を改善できる余地が大きいため、まず優先して見直すべき領域です。

人件費率を悪化させずに加算を増やす手順

加算取得による収益改善を進める際は、次の手順で検討すると人件費率への影響を抑えながら進めやすくなります。

  1. 現在算定している加算の一覧を作り、対象利用者数と算定率を確認する
  2. 算定要件を満たしているのに算定できていない利用者がいないか、利用者台帳とカルテを突合する
  3. 体制整備型の加算(人員増員を伴わない加算)から優先して算定漏れを解消する
  4. 人員配置が前提となる加算は、増加する人件費と見込み収益を試算してから判断する
  5. 加算算定後の収支差率の変化を月次で確認する

この順番で進めることで、まず人件費を増やさずに取れる収益を確保し、そのうえで人員増員が必要な加算を検討するという段階的な意思決定ができます。

加算取得による収益改善チェックリスト

次の項目を定期的に確認することで、人件費率を悪化させずに収益改善を進められます。

  • 特別管理加算の対象となる医療処置や状態の利用者を漏れなく抽出しているか
  • ターミナルケア加算の算定要件(死亡日及び死亡日前14日以内の訪問回数など)を記録で確認できる体制になっているか
  • サービス提供体制強化加算の算定要件となる研修実施やキャリア段位の確認を定期的に行っているか
  • 緊急時訪問看護加算や複数名訪問看護加算を検討する際、増加する人件費と見込み収益を試算したか
  • 月次で人件費率、収支差率、職員一人あたり売上高の三つを並べて確認しているか
  • 介護事業経営実態調査など公的な統計で自事業所の位置づけを定期的に確認しているか

まとめ

人件費率は訪問看護経営において重要な指標ですが、単体で良し悪しを判断するのではなく、収支差率や職員一人あたりの生産性と合わせて見ることが大切です。加算は人員増員を伴うものと、既存体制のまま算定できるものに分かれるため、まずは体制整備型の加算の算定漏れを解消し、そのうえで人員増員が必要な加算の採算性を試算するという段階的な進め方が、人件費率を悪化させずに収益を改善する現実的な方法になります。

出典