なぜ複数事業所になると加算算定の管理が難しくなるのか
訪問看護ステーションを1拠点だけ運営している間は、管理者が算定ルールを把握していれば大きな問題は起きにくいものです。しかし事業所が2拠点、3拠点と増えていくと、拠点ごとに管理者やサービス提供責任者が異なり、算定根拠の解釈や記録の書き方に微妙な差が生まれます。
この差が蓄積すると、ある事業所では正しく算定できている加算が、別の事業所では算定漏れになっていたり、逆に要件を満たさないまま誤って算定を続けていたりする状況が起こります。特別管理加算や機能強化型訪問看護管理療養費のように利用者の状態や人員体制を要件とする加算は、拠点ごとの判断のばらつきが生じやすい代表例です。
複数事業所経営において本部機能が担うべき役割は、現場任せにしていた算定判断を標準化し、事業所間の差をなくすことにあります。
本部機能に求められる5つの体制
1 算定ルール・記録様式の一元管理
加算算定の根拠となる記録様式やチェックシートが事業所ごとにばらばらだと、算定要件を満たしているかどうかの判断も担当者の経験に依存してしまいます。本部が算定マニュアルと記録様式のひな形を作成し、全事業所で統一して使用する体制を整えることが出発点になります。
改定のたびに要件が変わる加算については、本部が最新の告示や通知を確認し、改定内容を各事業所の管理者に周知する役割も担う必要があります。
2 人員基準・勤務実績の集約管理
訪問看護ステーションの指定基準では、保健師、看護師又は准看護師を常勤換算方法で2.5以上配置することが定められています。複数事業所で管理者やリハビリ職が兼務している場合、兼務先の勤務時間を正しく按分しないと、常勤換算数の計算を誤り、人員基準違反として指摘を受けるおそれがあります。
本部が各事業所の勤務実績表を毎月集約し、兼務者の勤務時間が適切に配分されているかを確認する仕組みが必要です。
3 加算届出状況の一覧台帳管理
特別管理加算、緊急訪問看護加算、機能強化型訪問看護管理療養費などの体制加算は、事業所ごとに地方厚生局への届出が必要です。事業所数が増えると、どの拠点がいつ何を届け出たか、更新時期はいつかが把握しづらくなります。
本部が届出台帳を一元管理し、次のような項目を記録しておくと管理漏れを防ぎやすくなります。
| 管理項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業所名 | 届出対象の事業所 |
| 加算名 | 届出済みの加算区分 |
| 届出日 | 地方厚生局への届出年月日 |
| 要件確認日 | 直近の要件充足確認日 |
| 次回確認予定日 | 人員異動等に伴う再確認時期 |
4 内部監査・自主点検の実施体制
本部が年に一度だけ確認する体制では、算定ミスに気づくのが遅れ、返還対象となる期間が長期化するリスクがあります。月次または四半期ごとに、レセプトと訪問記録を突合する自主点検を本部主導で実施する体制が望ましいとされています。
自主点検では、算定件数の急な増減がないか、特別管理加算の対象者要件に該当する記録が整っているかなど、実地指導で指摘されやすいポイントを中心に確認します。
5 実地指導対応マニュアルの共有
実地指導は指定を受けた事業所単位で実施されますが、どの拠点が対象になっても同じ水準で対応できるよう、本部が実地指導対応マニュアルを整備し、過去の指摘事項や改善事例を全事業所で共有しておくことが重要です。
本部が整備すべきチェックリスト
複数事業所を運営する経営者が、本部体制を点検する際に確認したい項目を整理します。
- 算定マニュアル・記録様式は全事業所で統一されているか
- 兼務者の勤務時間按分は本部で把握できているか
- 加算届出の台帳は最新の状態に更新されているか
- 月次でレセプトと記録の突合点検を行っているか
- 改定情報を全事業所の管理者に周知するフローがあるか
- 実地指導対応マニュアルは最新の指摘事例を反映しているか
- 各事業所の常勤換算数は基準を満たしているか
事業所数が増える段階で起こりやすい落とし穴
複数事業所を展開する過程でよくある例として、新規開設した事業所の管理者が前任の事業所と異なる解釈で加算を算定してしまうケースがあります。本部側が算定ルールの説明を口頭で済ませ、文書化されたマニュアルを渡していない場合に起こりやすい状況です。
また、訪問リハビリ職員が複数事業所を兼務している場合、どの事業所の常勤換算に計上するかの基準が曖昧なまま運用されていると、人員基準の算定根拠が実地指導の際に説明できなくなることがあります。こうした事態を避けるためにも、本部が記録と届出を一元管理する体制は欠かせません。
ICT活用による本部機能の強化
事業所数が増えるほど、紙やエクセルでの管理には限界が出てきます。クラウド型の記録システムやレセプトチェックツールを導入し、本部から全事業所の算定状況をリアルタイムで確認できる環境を整えることで、算定漏れや重複算定の早期発見につながります。記録システムの選定については、情報連携の仕組みが整っているかどうかも重要な判断基準になります。
まとめ
複数事業所を運営する訪問看護ステーションでは、現場の管理者やサービス提供責任者だけに算定判断を委ねると、事業所間で解釈のずれが生じやすくなります。本部が算定ルールの一元管理、人員基準の集約確認、加算届出の台帳管理、内部監査、実地指導対応マニュアルの共有という5つの機能を担うことで、算定漏れと返還リスクの双方を抑えられます。事業所数が増える前の段階から、本部機能の整備を計画的に進めることが、安定した経営の基盤になります。
出典
- 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準について」(老企第36号)https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの指定等に関する手続きの取扱いについて」https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「介護保険施設等実地指導マニュアル」https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」https://www.mhlw.go.jp/