D to P with Nの費用対効果を検討する前に押さえること
D to P with Nは、訪問看護師が利用者宅に同席し、医師とオンラインで結んで診療を行う仕組みです。オンライン診療の適切な実施に関する指針では、患者の医学的情報を医療従事者が把握できる体制として、看護師等の同席が有効な選択肢として位置づけられています。
この仕組みを事業所に導入するかどうかを検討する際、現場でよく出る疑問が費用対効果です。機器や通信環境の整備にかかるコストに対して、実際にどれだけの収益や業務効率化が見込めるのかを事前に整理しておくことが、導入判断のぶれを防ぐポイントになります。
本記事では、具体的な金額を仮定するのではなく、どの項目をコストとして洗い出し、どのような考え方で損益分岐点を試算すればよいかという実務的な枠組みを解説します。
導入コストの構成要素を洗い出す
D to P with Nの導入にあたって発生しうるコストは、大きく分けて次の四つに整理できます。
機器関連コスト
- タブレット端末やカメラなど、オンライン診療用の情報通信機器の購入費
- 既存の業務用スマートフォンやタブレットを転用できるかの確認
- 端末の保守やアップデートにかかる継続費用
通信関連コスト
- 訪問先での安定した通信回線を確保するための費用
- モバイルルーターや通信プランの契約料
- 通信障害時のバックアップ手段にかかる費用
システム利用料
- オンライン診療システムやビデオ通話システムの月額利用料
- 医療機関側システムとの連携に必要な費用
- 記録システムとの連携にかかる初期設定費用
人件費・教育コスト
- 同席するための訪問看護師の研修時間
- 患者・家族への説明や同意取得にかかる時間
- 運用マニュアル整備にかかる管理者の稼働時間
これらの項目を一覧化し、初期費用と継続費用に分けて整理することが、費用対効果を考える最初のステップになります。初期費用は一度きりの支出ですが、継続費用は毎月発生するため、損益分岐点の計算に大きく影響します。
収益側の考え方を整理する
D to P with Nを実施した場合の収益は、診療報酬上の評価に基づいて算定されます。ただし、令和8年度診療報酬改定に向けた点数や算定要件の詳細は、中央社会保険医療協議会での議論を経て正式に告示される内容を確認する必要があります。現時点で確定していない点数を仮定して収益計算を行うことは避け、自事業所の状況に当てはめて試算する際は、必ず告示・通知など公表済みの一次資料を参照してください。
収益側で押さえておきたい視点は次の三つです。
- 対象となる利用者がどの程度存在するか
- 医師側の対応体制が確保できているか
- 月あたりどの程度の実施件数が見込めるか
件数の見込みは、既存の主治医との連携状況や、利用者の医療的ニーズの高さによって大きく変動します。特別管理加算の対象となるような医療依存度の高い利用者が多いステーションほど、D to P with Nの活用場面が増えると考えられます。
損益分岐点を試算する考え方
費用対効果を判断する基本的な枠組みは、固定費を継続収益で回収できるかどうかです。計算の流れは次のとおりです。
- 月あたりの固定費合計を算出する(機器の減価償却分、システム利用料、通信費など)
- 一件あたりの想定収益を確認する(告示された点数に基づく)
- 固定費合計を一件あたりの想定収益で割り、損益分岐点となる月あたりの実施件数を求める
この損益分岐点の件数と、実際に見込める月あたりの実施件数を比較することで、導入判断の材料になります。見込み件数が損益分岐点を上回るようであれば投資回収の見通しが立ちやすく、下回るようであれば初期投資を抑える工夫や、対象利用者を広げる営業活動が必要になります。
費用対効果を高めるための実務ポイント
数字の試算に加えて、次のような運用面の工夫も費用対効果に影響します。
既存資産の活用
業務用のスマートフォンやタブレットをすでに保有している場合、新規購入を避けられる可能性があります。通信環境についても、既存の訪問業務で使用している回線を活用できないか確認します。
対象利用者の明確化
すべての利用者にD to P with Nを実施するのではなく、医療依存度が高く主治医との連携頻度が高い利用者を優先的に対象とすることで、限られたリソースで効果を最大化できます。
スタッフ研修の効率化
個別に研修を行うよりも、事業所内でマニュアルを整備し、集合研修や動画教材を活用することで教育コストを抑えられます。
定期的な見直し
導入後は半年から一年程度の運用実績をもとに、想定していた実施件数と実際の件数を比較し、必要に応じて運用方法や対象利用者の範囲を見直します。
導入判断チェックリスト
次の項目を事前に確認しておくと、導入判断の精度が高まります。
- 対象となりうる医療依存度の高い利用者数を把握しているか
- 主治医側がオンライン診療の実施体制を整えているか
- 既存の機器や通信環境を活用できるか確認したか
- 初期費用と継続費用を分けて一覧化したか
- 月あたりの損益分岐点となる実施件数を計算したか
- 運用開始後の見直し時期をあらかじめ決めているか
まとめ
D to P with Nの費用対効果は、機器や通信環境などの固定費と、算定件数に応じた収益のバランスで決まります。導入前にコスト項目を洗い出し、損益分岐点となる実施件数を試算することが判断の出発点です。点数や算定要件は今後の告示内容によって確定するため、常に公表済みの一次資料を確認しながら、自事業所の状況に当てはめて検討することが重要です。
出典
- 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
- 中央社会保険医療協議会 総会資料(オンライン診療関連)
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」