D to P with Nとは何か、観察記録がなぜ重要なのか
D to P with Nは、訪問看護師が患者の傍らに同席した状態で医師によるオンライン診療を行う形態です。医師は画面越しの情報だけでなく、現場にいる看護師の観察情報をもとに診療方針を判断します。つまり、看護師の観察記録の質がそのまま診療の質に直結するという特徴があります。
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、オンライン診療において医師が患者の心身の状況について得られる情報が対面診療より限定されることを前提に、看護師等が対面で補助する場合には、必要な情報を医師に適切に伝達することが求められるとされています。D to P with Nにおいては、この情報伝達の役割を担うのが観察記録です。
観察記録シートが整備されていないと、以下のような問題が起こりやすくなります。
- 看護師ごとに伝える情報の粒度がばらつく
- 医師が必要な情報を聞き出すために診療時間が延びる
- 口頭伝達のみになり記録として残らない
- 急変時の判断材料が不足する
こうした問題を防ぐために、あらかじめ項目を定めた観察記録シートを用意し、誰が記入しても同じ水準の情報が医師に届く仕組みを作ることが実務上の課題になります。
観察記録シートに必要な項目とは
観察記録シートは、医師が短時間で状況を把握し判断できることを目的に設計します。項目を整理すると大きく四つに分けられます。
バイタルサイン・全身状態
- 体温、脈拍、血圧、呼吸数、経皮的動脈血酸素飽和度などの数値
- 測定時刻
- 意識レベル、顔色、皮膚の状態などの客観的所見
数値は必ず測定時刻とセットで記載します。オンライン診療中に医師が確認したい場合、いつの時点の数値かが分からないと判断materialとして使えません。
主訴・症状の経過
- 患者本人または家族からの訴え
- 前回訪問時からの変化(改善・悪化・変化なし)
- 症状の持続時間や誘因
経過は時系列で書くことが基本です。いつから、どのように変化したかを整理しておくと、医師が電話やオンライン診療の短い時間で全体像を把握しやすくなります。
看護師のアセスメント
- 観察結果から考えられる状態の変化
- 緊急性の有無についての看護師の見立て
- これまでの指示内容との整合性
ここは看護師の専門的判断を記載する欄です。客観的事実と区別して書くことで、医師は事実とアセスメントを分けて評価できます。
医師への質問・相談事項
- 確認したい処置や投薬の可否
- 指示書の変更が必要かどうかの確認事項
- 家族への説明に関して医師に確認したい内容
質問事項を事前に書き出しておくことで、オンライン診療の限られた時間の中で聞き漏らしを防げます。
医師に伝わる記録の書き方のポイント
記録の項目が揃っていても、書き方次第で伝わりやすさは大きく変わります。次の点を意識します。
- 主観的表現と客観的事実を分けて書く(例「つらそう」ではなく「表情が険しく、呼吸数が平常時より多い」)
- 数値は単位まで明記する
- 時系列で記載し、いつの情報かを明確にする
- 結論を先に書き、詳細は後に続ける(結論先行型の構成)
- 専門用語は指示書や過去の記録と表記を統一する
特に結論先行型の書き方は、医師が短時間で優先度を判断する際に有効です。最初に「本日の主訴は呼吸苦の増悪」と書き、その後にバイタルや経過を続けると、医師は冒頭を読むだけで対応の緊急度を把握できます。
観察記録シートのテンプレート例
| 項目 | 記入内容の例 |
|---|---|
| 訪問日時 | 記入日、訪問開始時刻 |
| バイタルサイン | 体温・脈拍・血圧・呼吸数・経皮的動脈血酸素飽和度、測定時刻 |
| 主訴 | 本人または家族の訴えをそのまま記載 |
| 症状の経過 | 前回訪問との比較、時系列の変化 |
| 看護師のアセスメント | 状態変化の見立て、緊急性の有無 |
| 医師への質問事項 | 確認したい処置・投薬・指示変更の有無 |
| オンライン診療中の医師の指示 | 診療中に受けた指示内容を記録 |
| 今後の対応予定 | 次回訪問日、経過観察の方針 |
この表をもとに、自事業所の対象疾患や利用者層に合わせて項目を増減させると実用性が高まります。精神科訪問看護であれば精神症状の変化や服薬状況の確認欄を加える、といった調整が考えられます。
運用上の注意点とチェックリスト
観察記録シートを作っただけでは定着しません。運用面で以下を確認します。
- シートの記入ルールをスタッフ間で統一しているか
- オンライン診療前に記録を医師と共有する手順が決まっているか
- 記録の保管方法とアクセス権限が明確になっているか
- 記録内容が指示書や看護計画と矛盾していないか
- 定期的にシートの項目を見直す機会を設けているか
特に複数の看護師が同じ利用者を担当する場合、記入ルールが統一されていないと情報の粒度がばらつきます。新人教育の際にこのシートを使った記録の書き方研修を組み込むことも有効です。
よくある失敗パターン
- 項目が多すぎて現場で記入しきれず、結局空欄が増える
- 主観的な表現が多く、医師が事実を確認し直す手間が発生する
- オンライン診療直前に慌てて記入し、経過の記載が抜ける
- 記録が紙とICTで二重管理になり、最新情報がどちらか分からなくなる
これらを防ぐには、シートの項目を定期的に見直し、現場で実際に使われているかを確認することが大切です。記入に時間がかかりすぎる場合は項目を絞り込み、必須項目と任意項目を分ける工夫も検討します。
まとめ
D to P with Nにおける観察記録シートは、医師が限られた時間で的確な判断を下すための土台になります。バイタルサイン、症状の経過、看護師のアセスメント、医師への質問事項という四つの柱を整理し、客観的事実とアセスメントを分けて記載することが基本です。テンプレートを自事業所の利用者層に合わせて調整し、記入ルールの統一と定期的な見直しを続けることで、記録の質と医師との連携の質を高めていくことができます。
出典
- オンライン診療の適切な実施に関する指針(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938020.pdf