訪問看護ステーションの経営を数値で把握しようとしたとき、最初につまずくのが何を指標にすればよいかという点です。売上の増減だけを追っていても、それがどの要因によるものか分からず、改善の手が打てません。ここでは経営改善の出発点として使いやすい稼働率と加算算定率の2つに絞り、計算の考え方と確認手順を整理します。
なぜこの2指標から見るのか
訪問看護の収益は、基本療養費に各種加算を積み上げた構造になっています。収益を分解すると次の2つの要素に行き着きます。
一つは訪問件数そのものです。人員体制に対してどれだけ稼働できているかを示すのが稼働率です。もう一つは、算定できるはずの加算を漏れなく算定できているかという点で、これが加算算定率に当たります。売上が伸び悩んでいるとき、原因がどちらにあるのかを切り分けないと、対策の優先順位を誤ります。
稼働率はどう計算するか
稼働率は事業所によって定義の幅がありますが、基本的な考え方は次の式で整理できます。
稼働率=実際の訪問件数 ÷ 理論上の訪問可能件数
理論上の訪問可能件数は、常勤換算職員数と1人あたりの標準的な訪問件数から算出します。指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準では、指定訪問看護ステーションの人員基準として保健師、看護師又は准看護師を常勤換算で2.5人以上配置することが定められています。この基準人員をベースに、自事業所の実配置と比較しながら、余力があるのか人員に対して訪問件数が過不足なく埋まっているのかを確認します。
確認する際は、全体の稼働率だけでなく、次の単位で分解することをお勧めします。
- 職種別(看護師・理学療法士等・准看護師)
- 曜日別(平日・土曜・祝日)
- 時間帯別(午前・午後・オンコール対応時間帯)
全体値では見えなかった偏りが、分解することで浮かび上がります。例えば特定の曜日だけ訪問件数が少ない、特定職種の稼働が常に高止まりしているといった状況は、シフト調整や新規受け入れ枠の見直しにつながります。
加算算定率はどう計算するか
加算算定率は次の式で考えます。
加算算定率=実際に算定している件数 ÷ 算定要件を満たしている利用者数
分母にあたる算定要件を満たす利用者数は、カルテや指示書の内容を棚卸ししないと正確に把握できません。ここでよくあるのが、算定要件を満たしているにもかかわらず記録の記載不備で算定できていない、あるいは算定自体を見落としているケースです。これは架空の施設の例ではなく、多くの事業所で共通して起こりやすい構造的な問題として指摘されています。
加算算定率を点検する際は、対象となる加算ごとに台帳を作り、次の項目を月次で確認する運用が有効です。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者の抽出 | 主治医の指示書・診療情報提供書から要件該当者を洗い出す |
| 記録の整合性 | 訪問記録に算定根拠となる状態像が記載されているか |
| 算定実績の突合 | レセプトと台帳の件数が一致しているか |
| 見直し頻度 | 毎月、利用者の状態変化のタイミングで再確認する |
稼働率が低いときに確認すべきポイント
稼働率が低い場合、原因は大きく分けて人員側と利用者側の2つに分かれます。
人員側の要因としては、移動時間の非効率、訪問の固め打ちができていないエリア配分、急な欠勤時のバックアップ体制の不足などが挙げられます。利用者側の要因としては、新規依頼の受け入れ枠が実態として確保できていない、退院時の連携窓口が限られていて紹介が集中しにくいといった点が考えられます。
どちらの要因が強いかを見極めるには、訪問スケジュールの空き時間を可視化し、それが人員配置の問題なのか依頼件数の問題なのかを分けて記録することが出発点になります。
加算算定率を上げるための見直しポイント
加算算定率の改善は、新しい加算を取りに行くことよりも、既に対象になっている利用者の算定漏れをなくすことの方が即効性があります。見直しの優先順位としては次の順で確認するとよいでしょう。
- 特別管理加算の対象となる状態像(重症度や医療処置の内容)が記録に反映されているか
- 主治医の指示書の有効期間と算定期間にずれがないか
- 緊急時訪問看護加算など契約時点の同意書類が最新になっているか
- サービス提供体制に関する加算の届出要件を継続して満たしているか
これらは毎月の請求業務の中で確認できる項目であり、特別なシステム投資をしなくても、チェックリストの運用だけで改善できる領域です。
自己診断チェックリスト
自事業所の現状を把握するために、次の項目を月次で点検することをお勧めします。
- 常勤換算職員数に対する週間訪問可能件数を算出しているか
- 職種別・曜日別に稼働率を分解して記録しているか
- 加算算定の対象者台帳を作成し、月次で更新しているか
- レセプトと算定台帳の件数を突き合わせているか
- 指示書の有効期間と算定期間の整合性を確認しているか
まとめ
訪問看護の経営改善は、まず稼働率と加算算定率という2つの指標を自事業所の数字で計算することから始まります。全国平均の目標値を追い求める前に、自分たちの人員体制と算定対象者の実態を正確に把握することが優先です。月次での分解確認と台帳運用を続けることで、増員や新規加算の検討よりも先に、取りこぼしの解消という即効性のある改善が見込めます。
出典
- 指定訪問看護の事業の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令)https://elaws.e-gov.go.jp/
- 介護事業経営実態調査(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/127-1.html
- 介護給付費等実態統計(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/40-21.html