訪問看護ステーションが集合住宅やサービス付き高齢者向け住宅への訪問を増やしていくと、必ず向き合うことになるのが同一建物減算です。効率よく複数の利用者を訪問できる一方で、算定ルールを誤解したまま請求を続けると、過大請求として実地指導で指摘されるリスクがあります。本記事では医療保険と介護保険それぞれの同一建物減算のルールを整理し、集合住宅訪問での算定調整の実務ポイントをまとめます。

同一建物減算とは何か

同一建物減算は、同一の建物に居住する複数の利用者に対して同じ日に訪問看護を提供する場合、訪問看護の効率性を踏まえて点数や単位数を引き下げる仕組みです。1件ごとに移動時間や準備時間がかかる戸建て訪問と比べ、同一建物内での複数訪問は移動負担が小さくなるため、その分を報酬に反映させる考え方に基づいています。

医療保険では訪問看護基本療養費、介護保険では訪問看護費の中にそれぞれ同一建物居住者に関する減算規定が置かれています。制度が別々に存在するため、同じ利用者でも保険の種類によって判定基準や減算率が異なる点に注意が必要です。

医療保険における同一建物減算のルール

医療保険の訪問看護基本療養費では、同一建物に居住する利用者への訪問が同一日に何人発生したかで点数区分が変わります。目安となる考え方は次のとおりです。

訪問区分点数への影響
同一建物居住者以外の利用者通常点数を算定
同一日に同一建物内で2人までの訪問減算なしで算定できる場合が多い
同一日に同一建物内で3人以上の訪問所定点数から減算した点数を算定

重要なのは、事業所全体で見た同一建物への訪問回数ではなく、同一日にその建物で何人に訪問したかという単位で判定される点です。同じ建物でも訪問日をずらせば、減算の対象人数が分散するケースもあります。ただし意図的に日をずらして減算を回避する運用は、実地指導で不自然な訪問パターンとして指摘される可能性があるため注意が必要です。

介護保険における同一建物減算のルール

介護保険の訪問看護費でも同様に、同一建物等に居住する利用者へのサービス提供について減算規定が設けられています。主なポイントは次のとおりです。

  • 同一建物等(同一敷地内の別棟や隣接建物を含む)に居住する利用者へのサービス提供は、所定単位数から一定割合が減算される
  • 正当な理由がなく、事業所が1月にその建物で一定人数以上(目安として50人以上)にサービスを提供している場合は、より大きな減算率が適用される
  • 正当な理由として認められるのは、地理的な条件や利用者の急な状態変化への対応など、合理的な説明ができる事情に限られる

介護保険の場合は月単位での集計が必要になるため、訪問記録システムやレセプトソフトで同一建物ごとの月間訪問人数を可視化しておくことが実務上のポイントになります。

同一建物の定義はどこまで含まれるか

同一建物減算の対象になる建物の範囲を誤解していると、算定漏れや過大請求の両方が起こり得ます。代表的な対象例と対象外の例を整理します。

対象になりやすい例

  • 分譲・賃貸マンションで複数の利用者が入居している場合
  • サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム
  • グループホーム、養護老人ホームなどの施設系住居
  • 同一敷地内に複数棟が存在し、渡り廊下などで実質的に一体とみなされる建物

対象になりにくい例

  • 独立した戸建て住宅同士(同じ町内であっても建物が別であれば対象外)
  • 距離が離れた別敷地の建物(同一敷地内建物等に該当しない場合)

判断に迷うケースでは、地方厚生局や保険者に事前確認を行い、判断根拠を記録に残しておくことが後のトラブル防止につながります。

集合住宅訪問でよくある算定ミス

現場で実際に発生しやすいミスを一覧にしました。算定担当者はチェックリストとして活用してください。

  • 同一建物内の訪問人数を事業所全体で集計せず、担当者ごとにばらばらに管理してしまい、月間人数の把握漏れが起きる
  • 同一日に3人以上訪問しているにもかかわらず、通常点数のまま請求してしまう
  • 逆に、同一建物であっても対象外の戸建て集合地を同一建物と誤認し、不要な減算をかけてしまう
  • 訪問日をずらして減算を回避する運用を続け、実地指導で不自然な訪問パターンとして指摘される
  • 正当な理由による減算回避を主張しているのに、その根拠となる記録(急変対応の経緯やケア会議記録など)が残っていない

算定調整の実務フローをどう組むか

集合住宅訪問が一定数あるステーションでは、月次で以下のフローを回すことをお勧めします。

  1. 訪問先住所を建物単位でグルーピングし、同一建物等に該当するかを事前に判定してリスト化する
  2. 日次の訪問スケジュールから、同一建物・同一日の訪問人数を自動集計できる仕組みを記録システムに組み込む
  3. 月末にレセプト作成前に同一建物ごとの月間訪問人数を確認し、大規模減算の対象になっていないかをチェックする
  4. 正当な理由による例外を主張する場合は、根拠資料を訪問記録や連携記録とあわせて保管する
  5. 判定に迷う建物については、判断根拠と確認先(保険者・地方厚生局)を記録に残し、次回以降の判断基準として�ticケース集を作成する

こうした仕組みを構築しておくことで、算定担当者が変わっても一定の精度で減算判定ができるようになります。

2026年改定に向けて注目しておきたい点

集合住宅への訪問看護は今後も増加が見込まれており、同一建物減算の運用は診療報酬改定のたびに見直しの対象になりやすい項目です。特にオンライン診療との組み合わせや、同一建物内での効率的な訪問体制づくりが評価される方向性が議論される可能性があります。制度改定の内容は告示発出後に必ず一次情報を確認し、暫定的な運用ルールを社内で更新する体制を整えておくことが重要です。

まとめ

同一建物減算は、医療保険と介護保険で判定基準や減算率の考え方が異なり、同一日の訪問人数や月間の訪問人数といった集計単位を正しく把握することが算定精度を左右します。集合住宅訪問が多いステーションほど、建物単位でのグルーピングと月次チェック体制の構築が収益の取りこぼし防止と実地指導対策の両方に直結します。判断に迷うケースは記録を残しながら保険者に確認し、社内のケース集として蓄積していくことをお勧めします。