令和8年度(2026年度)診療報酬改定に向けて、訪問看護ステーションの現場では算定要件や加算の変更点に関心が集まりがちです。しかし経営面で見落とされやすいのが、改定のたびに増える記載事項に対応できず、レセプト返戻が増えるリスクです。返戻は再請求の手間だけでなく、入金の遅延というキャッシュフロー上の問題にも直結します。本記事では、令和8年度改定の現時点での公表情報を踏まえつつ、返戻が起きやすい項目と防止のための請求実務チェックリストを整理します。
レセプト返戻とは何か、査定との違いは何か
レセプト返戻とは、提出した訪問看護療養費明細書(レセプト)に記載不備や請求内容の疑義があり、審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会)から審査対象とならずに事業所へ差し戻される状態を指します。一方、査定は審査自体は行われたものの、算定要件を満たしていないと判断され、点数が減点または不支給となることをいいます。
返戻は形式的な不備が原因であることが多く、補正して再提出すれば算定できる可能性が残っています。これに対し査定は、実質的な算定要件の不備が理由であるため、再請求しても認められないことが少なくありません。したがって、返戻の段階で確実に補正できる体制を整えておくことが、収益を守るうえで重要になります。
訪問看護でレセプト返戻が起きやすい理由は何か
訪問看護の請求は、医療保険と介護保険の両方の制度が絡み、利用者ごとに保険種別や指示書の内容が異なるため、他の医療機関に比べて記載事項が複雑になりやすい特徴があります。特に次のような場面で返戻が発生しやすいとされています。
訪問看護指示書の有効期間切れ 訪問看護指示書には有効期間が定められており、期間外の訪問は原則として訪問看護療養費の算定根拠を欠くことになります。更新のタイミングを逃すと、その月の請求全体に影響することもあります。
特別訪問看護指示書との重複算定 急性増悪などにより特別訪問看護指示書が発行された期間は、通常の訪問看護基本療養費との算定関係が変わります。指示書の発行日と訪問日を突き合わせずに請求すると、重複や誤りが起きやすくなります。
複数名訪問看護加算の記録不備 複数名での訪問を行った場合、同行者の職種や訪問時間などの記録が不十分だと、加算の算定根拠が確認できず返戻の対象になります。
医療保険と介護保険の適用誤り 要介護認定の有無や対象傷病名によって、医療保険と介護保険のどちらで請求すべきかが変わります。認定状況の更新を把握せずに請求すると、保険者側での突合時に不一致が発覚します。
特別管理加算の対象傷病名不一致 特別管理加算は対象となる状態や管理内容が定められており、指示書上の傷病名や管理内容とレセプトの記載が一致していないと、算定根拠が確認できず返戻や査定の対象になります。
令和8年度改定で請求実務はどう変わるのか
令和8年度診療報酬改定の個別項目は、本記事作成時点では中央社会保険医療協議会での審議を経て告示される前段階にあり、具体的な点数や新設加算の詳細はまだ確定していません。そのため、確定していない加算名や点数を前提に実務対応を組み立てることは避けるべきです。
一方で、これまでの改定を通じて継続的に進められてきた方向性として、医療DXの推進やオンライン資格確認の活用拡大、電子カルテ情報の共有基盤整備などが繰り返し議論の対象となってきました。訪問看護の請求実務においても、電子的な記録連携が進むほど、記載事項の正確性がそのままシステム上の突合精度に反映されるようになります。つまり、紙の時代であれば見過ごされていた軽微な記載ゆれも、電子化が進むほど返戻の対象として拾われやすくなる可能性があります。
改定の詳細が告示された段階で、新しい様式や記載要領に沿った運用に速やかに切り替えられるよう、現時点では自事業所の請求フローそのものを点検しておくことが実務上の備えになります。
返戻を防ぐための請求実務チェックリスト
毎月の請求前に、次の項目を確認する運用を定着させることをおすすめします。
| 確認項目 | 確認内容 | 確認担当 |
|---|---|---|
| 指示書の有効期間 | 訪問予定期間が指示書の有効期間内に収まっているか | サービス提供責任者 |
| 保険種別の適用 | 医療保険と介護保険のどちらで請求すべきか、認定情報と一致しているか | 事務担当 |
| 加算の算定根拠 | 各加算の算定要件を満たす記録が訪問記録に残っているか | サービス提供責任者 |
| 傷病名の整合性 | レセプトの傷病名と指示書・加算算定根拠が一致しているか | 管理者 |
| 訪問回数・時間の整合性 | 訪問記録とレセプトの回数・時間に矛盾がないか | 事務担当 |
| 特別訪問看護指示書との重複 | 特別指示期間の算定ルールに沿っているか | 管理者 |
| 前月からの継続情報 | 前月の返戻・査定内容が今月の請求に反映されているか | 管理者 |
このチェックリストは月次だけでなく、指示書を受け取った時点、訪問記録を確定させた時点など、複数のタイミングで分散して確認する運用にすると、月末の請求作業に負荷が集中するのを防げます。
返戻が来てしまった場合の対応手順
返戻通知を受け取った際は、次の手順で対応します。
返戻理由の特定 審査支払機関から示された返戻理由をまず正確に把握します。理由が不明確な場合は、事務担当を通じて審査支払機関に照会します。
カルテ・記録との突合 返戻対象となった訪問について、訪問記録や指示書と突き合わせ、記載の誤りか、そもそも算定要件を満たしていなかったのかを切り分けます。
補正と再提出 記載の誤りであれば速やかに補正し、翌月以降の請求に合わせて再提出します。算定要件を満たしていなかった場合は、無理に再請求せず、なぜ発生したのかを記録し再発防止に活かします。
再発防止の共有 返戻理由をチーム内で共有し、同様の記載漏れが他の利用者のレセプトにも潜んでいないかを確認します。特定のスタッフや特定の加算に返戻が偏っている場合は、記載ルールの周知や様式の見直しを検討します。
令和8年改定に向けて今から準備すべきこと
改定の詳細が告示される前の段階でできる備えとして、次の点を進めておくことをおすすめします。
現行の指示書管理台帳の整備 指示書の発行日、有効期間、更新予定日を一覧化し、期限管理を仕組み化しておきます。
加算算定根拠の記録様式の統一 複数名訪問や特別管理加算など、算定要件の確認に必要な記載項目を訪問記録の様式にあらかじめ組み込んでおきます。
返戻・査定履歴の蓄積 過去の返戻・査定理由を記録し、傾向を把握しておくことで、改定後に新しい記載要領が示された際にも、自事業所がつまずきやすいポイントを予測しやすくなります。
最新情報の定期確認体制 中央社会保険医療協議会の資料や厚生労働省の通知は随時更新されるため、管理者が定期的に確認し、改定内容が固まり次第、速やかに院内周知できる体制を整えておきます。
まとめ
令和8年度診療報酬改定の個別内容はまだ確定していませんが、レセプト返戻の多くは指示書の期間管理や記載事項の整合性など、現行制度のもとでも防げる項目です。改定が告示されてから慌てて対応するのではなく、今のうちに請求フローとチェック体制を見直しておくことが、改定後の混乱を最小限に抑え、返戻による収益ロスを防ぐ最も現実的な備えになります。
出典
- 厚生労働省「訪問看護」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html
- 厚生労働省「診療報酬請求書等の記載要領等について」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3725&dataType=1
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo.html
- 社会保険診療報酬支払基金 https://www.ssk.or.jp/